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’80年代音楽の秘密に迫る?

 最近ちょっとしたきっかけで、「’80年代風オーケストラサウンド」というキーワードが浮かんで、自分で思いついた癖に、それってどういうものなのか、考え込んでいた。
 試行錯誤もありつつ、しばらくしてはたと思いついた。
 ――ああ、これは“戦メリ”のことじゃないか(w)。って、実にそのものでした。

 ヤングは何が「w」かわからないと思うけど、この時代に『戦場のメリークリスマス』という映画(大島渚監督)があって、ビートたけしやデヴィッド・ボウイが出てたんですよ。特に出演と同時に音楽まで担当した“教授”こと、今や日本を代表する音楽家である坂本龍一さん(もう業界インサイダーなので、恐れ多いですが“さん”付けです、もちろん)。このテーマ音楽が素晴らしくて、インストなのに大ヒットしてしまった(そもそも日本でインストがヒットするのって稀ですからね)。カンヌ映画祭出品作品、そして音楽は日本人初の英国アカデミー賞・作曲賞。

 この、一見わけのわからない「80年代風オケサウンド」って概念を、それこそ80年代に完璧に実践されていたんですね、というか明らかにこれが本家本元ですが。
 ただ、今このテーマ音楽を聞いてみると、広義のオーケストレーションはもちろんされていますが、意外というか、ほぼ全編シンセがフィーチャーされてるんですね(たぶん全て手弾きの感じ?もちろんハードシンセ)。自分の印象だともっと生楽器が入っていたように思ったんだけど、それだけアレンジと演奏が巧みであった、ということなんでしょうね。(生ピアノはメロとユニゾンしてます)
 ほのかにエスニックで懐かしく、そして(当時最新の概念であった)環境音楽的な響きもある。ブライアン・イーノですね。

 まあそれはそれとして、なんで長々と書いているかというと、今回その戦メリのフルオーケストラ演奏を見つけました、ということを書きたくて。教授ご本人がピアノを弾いています。素晴らしいですよ、3回ガン見した。

Merry Christmas Mr. Lawrence – Ryuichi Sakamoto HD (02-08-13)

 かなりふわっとした認識で書くので、非常に心配であらかじめ妄言多謝ですが、フルオケにありがちな声部がどうこうという感じではなく、もっと音響的なところを主眼にしたアレンジに、少なくとも自分は聞こえます。「線」ではなく「面」のアレンジですね。ある意味、ポピュラー音楽(ジャズ理論をベースにした)的といいますか。作曲勢の方々にはたぶんわかってもらえると思いますが。

 バイオリンでかなり高い音域でハーモニーを作って、それこそシンセのパッドのような効果を作り出しています。こんな音が出るとは、という驚き。こういう冒険的なアレンジは失敗すれば被害甚大なわけで、この結果はさすが、としか言いようがない。
 だから「いかにも」な、ありがちなオケアレンジはやっていない。非常に実験的といえると思います。
 原曲から引き継いで、プチエスニックだったり環境音楽的だったり。今さら自分なんかが言っても仕方ありませんが、やっぱり教授は凄いってことです。
 だから、80年代的なオケサウンドを出したかったら、今みたいなところは最低限クリアしないといけない。かなり高度なチャレンジになりますね。幸い、こういう素晴らしいお手本があるので、僕らみたいな人間には有難い限りです。
(いやー、今回は書いてて冷汗が出た。これはもう、同じ日本にこんな音楽家がいて幸せってレベルだなぁ)

 最近、この曲をはじめ、ちょくちょく日本の80年代音楽を聞いているのですが、あまり表だって書いている人はいないけど、80年代音楽って日本の一つの頂点だったんじゃないか。(それ以降の音楽がつまらないと言ってるのではもちろんありません)。でも、音楽で世界進出もしていたし、売上的にも(まあ時代の流れはあるが)今とは全く違って、自分のような当時の素人からみても業界全体が活気に満ちていました。
 坂本龍一さん、YMOもそうだし、カシオペア、(T)スクウェアといったフュージョン勢、渡辺貞夫さん、日野皓正さん、このあたりはメインストリームジャズとも股にかけた活躍、もちろん冨田勲さんもいた。
 80年代のアイドル音楽も、非常にユニークで、今や海外の若者にYoutubeで再発見されて、一部でカルト人気がありますからね。(ついでにいうと、当時のアニメ劇伴も高い評価を受けている。作家の名前が通じるほどです)当時の日本のAORも素晴らしかったが、やっぱり海外で再発見されてたりする。

 これはちょっと、このあたりをはっきり意識しつつ、「今」曲を書こうという人間は、戦略的に振舞ったほうがいいかも。取り入れられるものは取り入れていく、自国の音楽を模倣するのは模倣といわれませんから、海外のをやるとモノマネといわれるが。
 もちろんただの模倣でなく現在の音楽に発展的に取り入れるってことです。
 あんまり80年代賛美はしたくなかったんですね、自分の青春時代を賛美してるよくいるおじさんみたいだから(笑)。だけど、考えれば考えるほど、これはただごとではない時代だったと思えてきて、こんな文章を書いてみました。

 やっぱり60~70年代洋楽(AORやフュージョン含む)の盛り上がりを受けての、80年代ジャパン音楽の活況と頂点、これは歴史的にみて正しい認識なのでは。
 この時代の音楽を指す良い言葉はないか考えたが、Japanese ’80(Eighties) として、Jeighties(ジェイティーズ)って造語はいかがでしょう。

 ここから、今の音楽制作者は何ができるか。できることはたぶんたくさんありますね、自分はそう思います。

デモ曲追加・クレズマー風またはジプシー音楽的な小品

 この前の曲のボーカルをご依頼して、仕上がってくる間にささっと書いた曲。
 バイオリン+アコーディオン+フルートだけで勝負してみました。

「Tanto, tanto」

 こういう小編成だと誤魔化しが一切効きません。打ち込みはこういうのは却って弱いのですが、今回は敢えてそこへ。お洒落バイオリンをアコーディオンが伴奏する小品を書いてみたくなって、それだけではアンサンブルが寂しいのでフルートを。

 最初はバイオリンは「UVI World Suite」に入っているFiddleでやっていたんだけど、音の薄さがモロに出てしまってダメでした。しかもこれ、UVIはかなり雑なレコーディングしてた、波形見ると。最初からなんとマキシマイザー掛けて胡麻化してたので、それを切ってみたが無理でした。
 で、「UVI Orchestal Suite」のソロバイオリンを使って一件落着。やっぱりこのバンドルはポピュラー音楽向き。フルートもそうです。

Eテレ『旅するイタリア語』での大発見

 忘れないうちに書いておきたい話。

 風呂上りの深夜、Eテレの語学番組が意外に面白くて時々眺めているんですが(大人向けの内容、ビジネス旅行実用とか)、その中で「旅するイタリア語」という番組。
 何回か見た限りでは、どうやら生徒役の男性と案内役のイタリア人(イケメン)がイタリアを実際に旅して、様々な場面でイタリア語を使いながら学ぶ、という内容。
 これがまあ、旅の行き先が観光地ばかりだから、風光明媚なシーンのオンパレード。しかもレストランで食事しいの、デザート食べえのと、なんとも羨ましい限り。使うイタリア語も「これはいくらですか?」レベルの簡単なのばかり(笑)。
 イケメン案内役(日本語も上手)がこうですよ、と言った通りに生徒役の男性が言って、ロケ先のイタリア人がそれに答えて、ハイよくできました、みたいな。
 正直これで仕事になるとは、世の中うまい話があるなあ、くらいに思ってました。

 この生徒役の方が、なかなか渋いナイスミドルの男性で、最初はカッコいいから役者さんかな?と思っていました(竹中直人似?)。毎回イタリアンファッションも決まっています。しかしそれにしては若干カメラ慣れしていない様子で、特に教えられたイタリア語をリピートするときに、なんだか少し不審な動きをするのです(w)。なんだろうなあ?と。

 いつも途中から見て途中で切ってたから、出演者チェックできず、それでつい先日、番組のホームページを見たのですよ。そしたらなんと、「バイオリニスト」の肩書が(!)。ぬおお、そうなのかと、スマホだったのでお名前までは憶えてなかったのですが、これは是非次回しっかりみようと思ってたら、すぐ翌日、深夜やってました。

 どうやら総集編らしく、「アマルフィ」(有名観光地)編の中盤。男性とイケメンが狭い坂道をぐんぐん登っています。アマルフィ、古い港街で、険しい岩山を背景にした旧公国、街には古い教会があったり、現在は観光地施設が海岸近くに集中していて、でもまあその光景って、岩山の中腹からみると、ほぼジブリアニメか世界名作劇場に出てくる欧州の街そのまんま。石造り、シック、コンパクトで美しい。まあ街並みのセンスのいいこと。
 で、岩山に張り付くように民家やホテル(これは旧修道院らしい)があって、一般の人はこの山の手に住んでるらしい。

 それはいいとして、この時男性の肩に黒いバックがあって、これはバイオリンケースが入っているのでは? ということはこれから演奏が?と、作曲勢としては超・色めきたちました。

 岩山をかなり上まで登った先にあった目的地は、ふもとのレストランで紹介された、石造りの古い小さな家。ほんと崖っぷちに張り出していて、「これ大丈夫か」と不安になる造り。
 イタリア語でイケメンが呼びかけると、出てきたのはジェシカおばあちゃん。これまたジブリ作品に出てきそうな、かわいい感じの顔くしゃくしゃな方で、歳は70後半から80、もしかしたらもっといってるかなあ? 年齢不詳です(笑)。
 イケメンが「こちらの男性はジャポネ(日本)から来たんだよ」というと「知ってるよ。ロンドンの隣りだろ?」と。全員あっはっは、となりつつ。

 家の中へ通されて、ワインをふるまわれて(昔、周辺ぶどう畑だったそう)、そのお礼にと、男性がバイオリンを取り出しました。やはり!
 このシーン、三人はバルコニーに出ているのですが、そこから見るとアマルフィ海岸の全景、街から湾のすべてが見渡せて、もうマリンブルーの大スクリーンのよう、絶景としか言いようがありません。口あんぐりですわw 二人も驚いていると、「この街はすべてあたしのものさ」などと洒落たことを言うばあちゃん。イタリアの年寄りはイカスぜ!

 で、イケメンとおばあちゃんがテーブルに座り、男性がバイオリンを弾き始めるのですが。これがもう、また筆舌に尽くしがたい、素晴らしい演奏で。何かのセレナーデのような曲かなあ、実際は2曲くらい演奏したらしいけど、たぶんラジカセの音楽をバックに、非常に優しい感じの曲を披露してました。ステファン・グラッペリというお洒落バイオリンの元祖にして最強最高の演奏家がいましたが、そちらの流れを汲むジェントルで包み込むような演奏。まさに四本の弦が奏でる魔術です。
 このアマルフィ海岸をバックにした演奏があまりにハマってて、自分も見ながら「なにこれ?なにこれ?カッコよすぎ」と。すべてが響きあい符合し、あふれんばかりのイタリアの陽光の中に、バイオリンの音色が溶け拡がってゆく。この瞬間、この時空は永遠の世界につながりました。

 ジェシカおばあちゃんも、目をうるませ、何度も頷き、顔をくしゃくしゃにして喜んでいるんですね(お年寄りは嬉しい時万国共通の顔w)。イケメン氏はもっと大変で、あまりに音楽に入り込んでしまい、茫然としています。頬には涙の跡も(本人それに気づいてない様子)。
 で、演奏が終わって、ありがとう、みたいに終わるのですが、それからが大変。主にイケメンが(笑)。後ろを向いて涙を何度も拭うのですが、感動のあまり番組どころではない様子。
 家の中に戻ってからも、「どうしよう、涙が止まらない」と。それをおばあちゃんが、本当に素晴らしい演奏だったね、「Tanto, Tanto」と慰めるように言うのですが、この時の視線がまた優しくてね。息子か孫くらいの歳だろうしなあ。
 語学番組でこんな素晴らしい演奏が聴けるなんて思ってもみなかったので、本当に仰天ものでした。

 白状すると、自分も泣いてました(笑)。番組のナレによると、カメラさんも音声さんも泣いてたそう。オイそこにいた全員泣いてるよ! まあ少しでも音楽がわかる人なら、これはそうなります、それほどの演奏です。「なんじゃこりゃあ!」(c)松田優作、映画化決定! てかもう映画そのものですよ、「アマルフィのバイオリン弾き」。

 で、慌てて番組ページを見てお名前を確認しました。バイオリニスト「古澤巌」氏。不勉強で存じ上げておらず恥じ入るばかりですが、調べてみると日本を代表するような大ベテランです。経歴ものすごいですよ、もちろん何度も洋行されてるし、クラシックからポップスの分野まで幅広く精力的に活動されています。
 むろんメジャーでCDも出されています。レーベルは葉加瀬太郎主宰のHATSレコード、なんと自分の好きな「カシオペア3rd」と同じ。HATSは現代日本音楽界の良心か? これは早速聞かねばなるまい、と。

 HATSサイトのプロフィールによると、大学時代に葉加瀬氏と一緒にジプシー音楽バンドをやっていた。しかも欧州時代に、誰であろう、さっき書いたステファン・グラッペリとミニアルバムをレコーディングしたって。えええ?いや、ええええ!?(しかもこれ、ラストレコーディングだったらしい…)。そんな日本人がいたとは……というレベルの経歴です。まあ絶句です。そりゃあ、演奏がものすごいはずですわ。伝説のグラッペリ直伝ではないですか。オソロシイ…。

 こんな音楽家が現代日本にいたとは、って自分が知らなかっただけだけど、日本という国は実は音楽環境は大変良い国なんですね、今でも。いわゆる商業音楽・流行歌のメジャーがダメになっただけで、それ以外は全くレベルは落ちてない。それどころか……って話ですわ。

 蛇足ながら、古澤氏は、やけにダンディだと思ったら俳優業もやられていて、NHKの大河ドラマにも出演されてたそうw そして、イタリア語をリピートする時の不審な動きの正体もわかりました、あれはバイオリンを演奏している時のステップと同じでした。つまり音楽を奏でるかのように、イタリア語を喋っていたんですね。カッケエ人はどこまでもカッケエのだなあ。

 大変勉強になった番組でした(同じ番組で、もう放送済だけど、イタリアのバイオリン工房を訪れた回もあったらしい。見たかったなあ)