月: 2018年8月

カレン・カーペンターの曰く付きソロアルバム

 前回、カーペンターズのことを書いた時に、カレン・カーペンターのソロアルバムが存在していると知り、しかも録音当初はお蔵入りになったといういわく付き作品だったというので、これは聞いてみなくてはと注文した。
 録音が1980年で、一部の曲はカーペンターズのアルバムでリミックス等で収録されたが、アルバム自体はなんと1983年のカレン没後も発売されず、1996年になってようやくレーベルが動いたという。しかもきっかけは、日本でのカーペンターズ人気の再燃だったというのですね。
 どうですか、これは問題作っぽいでしょ? アルバムタイトルは『遠い初恋』(原題: Karen Carpenter)
 

 例によってWikipedia等いろいろ調べて経緯をまとめると:

・1980年、兄のリチャードが睡眠薬依存症で治療に専念しなくてはならなくなり、カーペンターズは休業状態になった(そんなことがあったんですね)。

・この間、仕事を休むのを嫌ったカレンはソロアルバム制作を決意、リチャードはあまり賛成という感じではなかったらしいが、A&Mレコードのハーブ・アルパートに相談すると、名プロデューサーのフィル・ラモーンを推薦された。

・カレンは単身ニューヨークに赴き、フィルとともにアルバムを制作。バックにはボム・ジェームス、スティーブ・ガッド、マイケル・ブレッカー、リチャード・ティー等フュージョン界のトッププレイヤー、そしてビリー・ジョエルのレギュラーバンド、マイケル・ジャクソンに関わったスタジオミュージシャンを揃えた。
(ものすごい陣容です、しかしまとまるのか……実はこれ杞憂じゃなかった)

・アルバムは一応完成するが、カレンは気に入らなかったようで、何度もやり直した。前述のように豪華ミュージシャンを揃えたので、やり直しにもスケジュール確保が大変で、制作が長引く要因になった。
 予算は完全にオーバーし、カレンは自分もかなりの資金をつぎ込んだとのこと。
(これだけの陣容を長時間拘束すれば当然ですね)

・年末にアルバムは完成するが、それを聞いたリチャードやA&Mレーベルの反応は芳しくなかった。その要因のひとつに「歌詞が性的すぎる」(!)というのがあったらしい。

・最終的に、カレン自身の決断でアルバムはお蔵入りになった。
 

……ね、ここまで読むと兄リチャード、そしてハーブアルバート、お前ら鬼畜生か!って思うでしょ? カレンがせっかく私財までつぎ込んで完成させた、豪華ミュージシャンを揃えたアルバム、つまらない訳がなかろう、と。
 さては勝手にソロアルバムを作ったのが気に入らなかったのか? カレンは籠の鳥じゃないんだぞ、とかね。
 自分もそう思ってました、実際『遠い初恋』を聴いてみるまでは。

 聴いたあとは……
「ああ、これはリチャードとA&Mが正しかったわ」
 とまあ、お約束の展開に(汗)。

 うーん、もちろん普通の水準は完全に超えているんだけど、それにカレンのボーカルはやっぱり素晴らしいけど、特に1曲目なんか、カレン自身の「迷い」が出てるようで、AORというわけでもなく、なんだか中途半端な雰囲気が。
 この「迷い」、なんでしょうね? カーペンターズ路線でいくか、それともカレン個人の新しさを出していくか、はっきり決めていない感じ、ですか。当時、カーペンターズはまだ存在していたし、難しいのはわかるんだけど。
 この曲、ロッド・テンパートン作曲ですからね(これまた名プロデューサーの)。
 しかも、ここは声を大にして言いたいけど、よりによってこの一番大事なアルバム1曲目だけ、ミックスがおかしいのです(断言)。伴奏が大きすぎて、ボーカル曲でなくインスト曲にボーカル入れたようなバランス。
 これは悪いけど、フィル・ラモーンにゴラァ!したい。グラミー賞14回だけどw(いや14回て…トロフィーでサッカーチームできますがな)。
 ちょっと理解できないなあ、これは…。もしかすると時々あるらしいが、ミックス長時間やりすぎて誰も問題点が見えなくなったってやつか?(耳が慣れてしまうため)
 マスタリングの問題かとも思ったが、他の曲は大丈夫なので。

 逆に、もっとモロにカーペンターズっぽい曲、あるいはR&Bっぽい曲は、すっきりしてて聞きやすい。曲調もよい。

 そして、「性的」な曲もありましたよ。なんだそれ、って思ったが、聞いてみたら「アフタヌーンにあたしを抱いて」って歌詞の曲が。making loveなんで、モロです。カレンも当時30歳ですからね、全然不思議ではないはずだけど、カーペンターズのカレンとしては清純なイメージだから、これは衝撃ですね。(歌詞は作詞家が書いてます。他にも何曲か)

 全体的にみて、豪華ミュージシャンを揃えているにも関わらず、(アンサンブルは自然で流石だけど)ほぼ空気、フュージョンプレイヤーの見せどころもほぼない(ボブ・ジェームスのアレンジは良かった)、どうも微妙にまとまりがない、正確には「芯」がないアルバムになってしまっている感。
 これは、当時超売れっ子だったカレンのソロ1stとしては出せないでしょう。世間をがっかりさせてしまう。
 そして、性的で大胆な歌詞の歌は、たぶん間違いなくマスコミからバッシングを受けたでしょう、当時なら。

 こうやって考えると、リチャードやレーベルの反応は、正しかったといえます。やっぱりこの人たちの鑑識眼は抜群でした。
 難しいもんですね。

 しかしあれだな、出せないようなアルバムを大金かけて作ってしまったのは、やっぱりプロデューサーが悪いよ、これは。カレンは絶対無実なので(笑)。当時、業界的にも立場悪くなったろ、フィル・ラモーンは。
 何やってんだよ、もっとガンガン来いよフィル!カモーンカモーン! てな。
 あ、こういうのは要りませんか。

(ケチつけるだけだとアレなので、ぼくのかんがえたさいきょうのカレンソロは…。せっかくガッドやティーを連れてきたんだから、いっそ全部「Stuff」(独自のサウンドで、うるさいジャズファンも黙らせた伝説のフュージョングループ)で録音したら良かった。これだとサウンドもアンサンブルもバシッとまとまるでしょう。しかもカントリーからソウル、R&B、フュージョンまで対応できる、この人たちなら。カレンはドラマーなのでガッドとソロ合戦入れるとかさあ……。あとアレンジャーにヴァン・マッコイ連れてきたら最高!)

 とりあえず、AORというよりは「カーペンターズから一歩発展させた系」サウンド、カレンのボーカルは相変わらず素晴らしいし、ご興味のある方は是非。なんのかんの言って、良質な王道アメリカンポップスなのは間違いないので。

 自分のベストラックは8「My Body Keeps Changing My Mind」ですね。なんとファンクなディスコ曲、ベースはブラザース・ジョンソンのルイス・ジョンソンだぜ。ロッド・テンパートン&ジェリー・ヘイがアレンジ。ビート抑え目ですが、そこがまた上品でカレンに合ってる。

デモ曲追加・夏だ16ビートだFusionだ

 デモ曲追加です。夏曲第二弾間に合った!

「わすれじ」

 夏なのでちょっとアンニュイで退廃的なミドルナンバー書こうとしたら、ベースをスラップ(チョッパー)にしたばかりに、各パートが16ビートで応酬をくりひろげるフュージョンになってしまった。が、無論後悔はしていない。
 アップテンポで元気のいい曲ですが、ちょっと懐かしい感じも狙いました。これでエレピとストラトなら定石すぎるので、生ピアノとアコギにして現代的な感じに。
 ブラス、ストリングス、シンセも入ってきます。
 アウトロで少しおっと思っていただけたら大成功。

 今回は「まよ」さんにボーカルをお願いしました。声に安定感と華やかさ、ほんのりとした大人っぽさもある、上品な感じのボーカルです。曲にぴったりのテイクを一発で仕上げて頂いて大感謝。
(お願いしておいてなんだけど、この曲難しいんですよ。「どう歌うか」ってところがね…。毎度ボーカルさんたちの優秀さにテンション上がりまくりですよ)

 ミックス、またも苦労しました。スラップベースはダイナミクスが大きいので扱いが難しい。アレンジ的には打楽器と同じ効果があると再確認。しかしベースライン考えるの超・楽しかった。
 中域が混雑してて、ボーカルパートに被って音が濁りがちだったので、ピアノとアコギをコンプのサイドチェインで抑えました。

 な~んか、デモ曲作ってるのが一番自分の勉強になってると思う、心から。

(Dedicated to the faraway diva)

テレキャスとカーペンターズ

 エレキギターでテレキャスターって種類のがありますね、フェンダー社のやつ。現代日本だとまだロック全盛なのでバンドの中であまり見かけないけど、メジャーでないシーンでは愛用者を見かける。高音がギラギラした独特の音がするギターで、エレキなのに不思議とアンプラグドな味もする。
(ぶっちゃけカントリー&ウエスタンやソウルではよく使われている。すぐ思い浮かぶギタリストはコーネル・デュプリーだな)

 このテレキャスについてちょっと必要があって調べてて、そういえばカーペンターズでも使われていたなあ、と思い立ち、確か名曲「TOP OF THE WORLD」もそうだっけと、こんな時便利なYoutubeへ。そしたら出てきたのが以下のレア動画。

 なんと、ホワイトハウスでのライブだそう。あの建物、こんな陣容が入るホールがあったんだな。1973年5月、臨席していたのは西ドイツの宰相とニクソン大統領(笑)。
 冒頭でライトが落ちる前、リチャード・カーペンターの右後ろにちらっとギタリストが映りますが、やっぱりテレキャスでした。
 まあ、そんなことより、これはガチ見してしまいますよ。カレンはドレス姿で素敵です。ドラムも叩きますよブラシで、ドラマーですから。

 曲の最初と最後に「ヒーハー!」言ってますね。やっぱり、この曲は二人の中ではカントリーなのだな。
 映ってないけど生ストリングスいますね。この音は7人編成くらいかな?
 さらにハープまでいます。さすが70年代、すべて生でこれは豪華。

(まあ、ただもう少し時代が下った時のライブも見てみたら、そっちのギタリストはセミアコ(たぶんギブソンの335?)でしたけど。途端にジャズっぽくなり面白い)

 こうしてみると、リチャードはやっぱイケメンだな。これならリチャード違いのクレイダーマンとも勝負できそうか?(笑) カーペンターズというとカレンばかり語られるけど、多くの名曲を書いたのはこの人ですから。ソングライターとしてはすでに歴史に名を刻んでいる人(ちなみにまだご存命です)。
(なお、あの名曲たちの歌詞を書いたのは、元はリチャードの大学時代の友人だった人らしい)

 ま、それにしても、カレンが80年代初頭に拒食症で亡くなった時は、本当に驚いた。まずこの病気が日本では全く知られておらず、当時のワイドショー見てて憶えているけど、アナもコメンテーターも、医師的な人の解説聞きながらポカーンですよ(視聴者も)。まさか身体は健康なのに精神的なもので食事が喉を通らなくなるなんて。それから10年位たってようやく日本でも一般化した感じ。

 で、例によって今回もWikipedia見てみたら、大変なことが書かれていた。ある日カレンが「おにいちゃん、私太っているかな?」と聞いたらしい。そしたらリチャードが「ああ、ちょっとな」と何気なく答えてしまったんだと。おい兄貴、それはいかんぞ。それがカレンのダイエット心に火を付けてしまったと。
 実際どの映像見ても全然太っているように見えないんだけど、強迫観念ってそんなもんかもしれませんね。他にも音楽雑誌に「Fat Sister」と書かれたりとか、これだけの人気デュオだったので、色々と批判されたりもした。当時はメディアの力も強かったから。

 それにしてもYoutubeはレア映像の宝庫ですよ、一体どこにこんなビデオが残っていたんだか。関係者のリークなら、こういうのは超・大歓迎ですが。

(追記:大物ユーザー忘れてた。日本だと布袋寅泰がテレキャスの愛用者でした)
(追記2:どうもこの映像、DVDにも一部が収録されているらしい)

洋楽コンピで発見した面白い曲

 「Sunday Morning」という洋楽コンピCDで発見した面白い曲。
「Cartoon Heroes/AQUA」

 早速Youtubeの公式クリップを貼ってみます。売れに売れた曲だそうで、知っている人は今更なんでしょうが、この頃(2000年代初頭)って自分はもうインスト曲ばかり聞いていて、完全ノーマークでした。

 まずタイトルが「Cartoon Heroes」ですよ。「うん?」ってなる。ボーカルの女性の声に「はぁ?」、真面目に展開するので「えぇ?」、サビが非常な美メロなんで「うわぉ」ってなるという、久々に音楽そのものの斬新さと楽しさにぶちのめされたというか(w)。

 すごい声だよなあ、これ最初「子供が歌っているのか?」、次に「いやボイスチェンジャー?」「女性の裏声?」となりましたが、ボーカルの人の地声らしい。アニメ声・声優声を超えて、ほとんど安田大サーカスの黒ちゃんだから。

 Wikipediaによると、デンマークの男性3人でデビュー前にボーカルを探していたところ、見つかったのがこの女性リーナだったという。こんな声の人と組もうと思ったのが凄い(w)。もちろんもしハマれば唯一無二の個性になるわけで、事実そうなって、出したアルバム2枚が全世界で3300万枚というデタラメな数が売れたらしい。配信主体になってしまう前の、最後の滑り込みみたいな感じですか。

 まあ見てわかる通り、ビデオクリップが爆笑ものなんで、こういうバカバカしい映像に金をつぎ込む奴らは大好きだぜ(笑)。
 ただ音楽としてのセンスはかなりいいですよ、これは。打ち込みのオーケストラとクラブサウンドの融合も面白い。さっき書いた通りサビの美メロはほんとに癖になる。
 ただミックスはもうヘッドフォンに特化してあって、コンポで聞くと重低音ブーストがきつい。あと、このビデオクリップ、公式なのになんとLとRの定位が逆です。CDで聞くとハープが左から聞こえるけど、こいつは右からだから。すさまじいチョンボですが、まあご愛敬か(結構Youtubeはあるんだよなあ)。

 久々にアルバムも聞いてみたいアーティストだったので、2枚注文した。