月: 2022年9月

再びマスタリング考

 またぼやっと制作話を書いてみます。
 Ozoneでマスタリングしていて結構前に気付いたことだが、これってボーカルが2mixより大きくなるね(少なくとも聴覚上は)。ボーカルだけでなくコーラスも大きくなる。だから人の声にフォーカスするように作動してる。
 たぶんそういうニーズを汲んでアルゴリズムが作られたんだろうが、つい忘れて痛い目に遭いがち。2mixでジャストの音量だと、マスタリング後にボーカルが大きくなりすぎるから。だから2mixはやや抑え目ぐらい(バックキングがやや大きいかな?…程度)がちょうど良い。

 このあたりも、ヘッドフォンやミニコンポではなかなか判別がつかず、フルサイズのステレオコンポでようやく気付いたりする。

 ……しかし、毎回このステレオコンポの話も書いてるが、このネット配信時代に本当にコンポをリファレンスにするのが正解か、ちょっと疑問になってきた。モニターSPの他は、ミニコンポかラジカセにすべきじゃないか、とか。以前も書いたが、音圧を上げたマスターは、ハイファイのコンポで聞くと、結構耳がつらい音になる。かといってそっちにガチッと合わせてしまうと、今度は音圧が足りなくなるんじゃないかと心配。
(まあ、コンポだと純粋にアラが見えることが多いから、助かっているけど。逆にいえば、今のところコンポであわせると、他の環境でも録音物のバランス・品質は向上します)

 マスタリングも、目指す「音」によって、正解が複数ある世界だから、考え考えその時々で(曲によって)ベストの答えを見つけていくしかないのでしょうね。

サイト名変更

サイトの運用目的をより明確にするため、サイト名を新しくしました。

旧:「弦央昭良 / Music Works」
新:「作曲家・弦央昭良のサイト」

外観も若干変更しています。しばらく色々弄ると思いますが、
どうぞよろしくお願い致します。

ProToolsとかPSPのバグ

 少し前に書いた通り、制作でMIX工程からProToolsでの作業にしています。打ち込みは使い慣れたABILITYで、その後ProToolsという分業はなかなか合理的で、この方式に安住してしまいそう。
 プロツーにバウンスにしたWAVを持ってくる時に、一緒にMIDIもメロだけでもつけると、AメロBメロ……といったコメントも表示してくれるので、曲の構造がわかって便利。

 しかしプロツーも、自分の環境だけかもしれないが、多少変なバグが残っているな。Windowsなので音楽環境と本業の仕事環境でアカウントを分けているんだが、音楽アカから別アカに行って戻ってくると、再生周りのボタンが押せないとか、スクロールがバグるとか時々出る。
 またこうなると、プロツーを終了したあとに、なぜかもう一度「自動起動」する(w)。なんやねん、ほんと20年前の海外ソフトか。

 それと、またもやPSPのプラグインがバグってます。AAXでもか。Nexcellenceがエラーを吐いて動かんし、無理やり使おうとすると、DAW巻き込んで落ちます。Vintage Warmerとか2445はちゃんと動いた。PSPはたぶん開発のマンパワーが足りてない、その割に製品数が多いので、ちゃんとバグ取りができてないんじゃないか。やはり怖くて全面依存できないメーカー。
 そこへ行くとWavesはAAXも鉄壁の安定動作だなあ……。実用性を考えたら、やっぱり大デペロッパーの製品になりますね。Softubeも完璧に動いてるな。あとNIのKomplete付属系のやつも。

昭和アイドルと営業費

 最近読んだ興味深い記事から、メモ書き。

 記憶頼りなので実名は伏せますが、昭和の時代に活躍したある著名アイドルグループの話。事務所はグループのデビューのために作ったそうで、最初は資金難で困窮した。助けてくれる人がいたが、相場関係者だったらしい。グループはその後売れに売れて、一説では350億とも500億ともいわれる金額を稼ぎ出した。事務所にも、少なくとも50億は入ってきた。……が、グループ解散の時には、本当に資金がすっからかんになっており、事務所も廃業。何にそんなに使ったのか。

 事務所の社長は、グループのメンバーに、300万の月給を払っていた。マンションも買い与えた。それが当然に思えるほど売れていた(ただ睡眠時間は1時間の時もあり、帰れないことも多かった)。
 また、賞レースに食い込むため、芸能界の実力者への付け届け、接待ゴルフ、豪華な食事……と、湯水のように「営業費」を使った。それで本当に資金を使い切ったそうです。(もちろん曲も超一流の作家陣に依頼、プロモーション費も膨大…)

 自分の感想としては、昭和の時代だし、さもありなん、と納得してしまいました。こうなってくると、音楽といっても普通の(モーレツ)営業と変わらないなあ、という感じですね。

(驚くべきことは、この営業費は爆発的に売れた後に掛かっている、ということ。賞を獲るのはそれほど大変ということでしょう)

 余談、グループメンバーのインタビューによると、当時の記憶は全くないそうです。忙しすぎて全て記憶が飛んでいた(w)。ただTVやステージで歌って、振り付けの練習して、レコーディングして……それが延々ループしていて、止まったと思ったら解散していたらしい。怖ろしい昭和アイドルの弾丸営業ぶり。売れるはずですが、よく過労死しなかったと思います。(当時売れたアイドルは、みんな同じこと言ってますね)

グーグル広告の話

 先日弊レーベルからリリースした本格演歌「粉雪の海」ですが、実は初の試みとしてグーグル広告を入れてみました。検索結果に関連で出る形態のものですね。
 今回はテキストだけなので、広告出稿としては楽。グーグル広告が優れているのは、表示回数では課金されず、広告がクリックされて始めて課金されるというシステム。実は大変良心的なんですね、昔のネット広告は表示回数で課金されたりしたので。

◆8/16 配信開始 アマゾン新着3位!

「粉雪の海」



Amazon Apple Youtube Spotify

 一応具体的な数字の公表は差し控えるが、クリック率は0.5%程度で、例えば10000回表示されたら50-60回クリックされるという感じ。クリック率は大体この程度が標準らしく、昔も別件で何度か広告を入れたが、その時も同じでした。
 検索作業中に、広告を見てクリックしてくれる人の数は、まあよほど気を引くものでもない限り、そんなものなんでしょう。

 それより今回はかなり意外な結果が出ています。クリックした人の年代層を見ると、20代・30代の人が多い。演歌と銘打っているのにこの結果は、広告の文面が良かったのかもしれない(新世代の演歌歌手という点を強調した)。
 ただ、クリック後に曲を聞いてくれたかというかというと、ディストリビューターの数字を見ていても、かなり疑問が残る。あまり実際の広告効果としては上がってないようだ。
(そもそも、広告は完全に赤字です。サブスクの再生は1回で1円にもならない。平均1銭くらいか?)
 認知度を上げる、という先行投資のような感じでしか、広告を入れても意味はないというのが、今のところの結論です。

 これが1万も2万もする「商品」だったら、それなりに費用対効果はあるんでしょうが。(例えばCDを宣伝する、という形になら、まだ費用対効果はありそう)

 さあ、広告で宣伝効果が上がらないとしたら、どうしたらいいか。たぶん一つ方法はあるが、かなり地道にやっていくしかないだろう、と考えている。千里の道も一歩から。

Roland TR-8導入

 楽曲のクオリティ上げのためにどうしてもハードのドラムマシンが欲しくなり、TR-8を購入。今更感は自覚してる。現行機種のTR-8s/6sと迷ったが、ちょっと操作が複雑そうなので、結局出物を見つけてTR-8。808系はどうせ絶対必要。正直そろそろソフト音源では物足りなくなってきました。
(Boutiqueシリーズは、コンパクトだが操作性が疑問だった。ベリのクローンは音が違う気がする)

 で、届いたブツを見て、結構デカくて驚くという(w)。B4サイズくらいはありますね。
 色々触って鳴らしてみたが、やっぱり迫力・音の説得力が段違い。一番感心したのは、これはテルミンやオンド・マルトノを祖先とする、“電子楽器”の末裔だな、ということ。ちゃんと演奏性も考えられているもんね。

●良かった点

・パターン16ステップ固定でなく32ステップもOK
・3連系もいける
・16ドラムキット内蔵、909系もアサインできる
・USB-MIDIで11インストをパラでDAWで送れる(超時短録音)
・その際、96/48/44kHzが選べる(ファーム対応済)
・パターン鳴らすと音に加えてMIDIも出力
・ステップ単位でリバーブ掛けると驚きのカッコ良さ

●悪かった点

・演奏中は良いが、DAW作業中は照明がド派手で気が散るw
・5分経つとネオンサイン攻撃も発動

 ネオンサイン(スクリーンセーバー)は設定で時間延ばせます。この電飾デザインはたぶんDJプレイでテンション上げのためだろうな、こいつはハード音源というより楽器なので。
 弄り倒していると新しいタイプの曲が書けそうな感じはする。
 あと、音色や発音タイミングの揺れがあって、ベタ打ちでも心地よいシーケンスが可能。このあたりはエミュレーションながらさすがに公式の完成度。ベロシティにも反応するよ。

伝説の歌謡曲

 懐かしの大ヒット曲、伊東ゆかりさんの「小指の想い出」(1967年)を聞いていました。
 古い曲なので、今と比べたら時代を感じるところはありますが、それでも逆に音楽にとってハイファイ(高音質)ばかりがベストなわけではない、と思えてきます。
 もちろんこの録音も当時は最高品質のものだったわけですが(ミックスも良い)、今聞くと現代の録音物とは随分違います。

 まず圧倒的に音が太い。録音機材はアナログのものばかりで、歪み感も感じられるわけですが、むしろ温かみのある存在感があって、透明感はなくとも心地よい訳です。ご想像通り、今この音を再現しようとしても、どんなレコーディングスタジオでも無理でしょう。
 マイクが写し取った当時の空気感・時代の色合いみたいなものは、特別のものですね。
 イントロのトランペット、mp3で聞くと歪んでいるように聞こえるんだけど、確かCDだとギリでクリップしてない感じだと思った。これなんかむしろ、曲と合っていて却って良いくらい。
 そのイントロから、ラテン調の素晴らしいアレンジのバンド演奏が聞けます(これはルンバかな?)。

 もちろん当時はオープンリールのテープレコーダーが回っていたわけだけど、1967年というと、メジャーのスタジオでもせいぜい12トラック、もしかすると8トラックしかなかったかも。(発売はキングレコード)
 ……ということは、こんな大編成のバンド演奏を多重録音で録れるわけがないから、少なくともストリングス以外は一発録りじゃないかと思いますが、ぜひ業界の諸先輩方にご意見を伺いたい(w)。この演奏、アンサンブルも非常に良くいかにも手馴れた楽団が一発で録った感じなんですね。
 エレキギターとハモンドをユニゾンで演奏させて(今でいうレイヤー)、シンセみたいな効果を出したりと、アレンジも抜群。
 事実上のスタジオライブだったとしたら、生々しい躍動感は、そのせいだと思われます。
(もしやストリングスも一発録りかも…。レイヤーのところに入ってくるし)

 器楽演奏のことばかり書いたが、むろん伊東ゆかりさんの可憐で切ないボーカルがあってこその名曲です。当時20歳。
 面白い話があって、後年ご本人のインタビューで、当時は歌詞の意味なんて全然判っていなかったそうです(w)。ただ出されたものを歌っただけ、とのこと。それでこのクオリティは、やっぱり一時代も二時代も作った歌姫です。

 こういう扇情的で濃い感じの歌、正に歌謡曲の王道といえるものでしょうが、今はなかなかないですね。まあこの曲なんかも、時代が生んだ奇跡の録音芸術だと思うわけです。
 一説ではなんと150万枚売れたという大ヒット曲。当時まだオリコンは無く正確な数はわからないとか。全てが伝説です。