月: 2021年4月

リアルアバターの恐怖

 今回はちょっと趣向を変えてサイバー犯罪に利用されそうな技術の話。
 ちょっと前、オバマ大統領やイギリスの首相の映像を加工して、言っていないことを言わせている映像が話題になりましたが(実験という種明かしはしていた)、これはリアルタイムでやっているのではなく、後で時間と手間を掛けて加工して作られたものでした。他の人が喋っているのを一種のモーションキャプチャで読み取って、その通りにオバマの顔を動かすんですね。

 ただ、どうも今はそれがリアルタイムで出来るようになっているようで、ある研究者がパソコンでそれを実現してしまったようです。

ZoomやSkypeでリアルタイムに他人になりすませるオープンソースのディープフェイクツール「Avatarify」
https://gigazine.net/news/20200417-zoom-skype-avatarify/

 記事の内容が正確だとしたら、以下の映像はその技術を使ってZoomで友人を騙したものです。なんと、テスラのイーロン・マスクに成りすましています(笑)。間違ったZoom会議室に入っちゃった……ごめん、みたいに言ってますね。マスクは割りと無表情な感じだから、余計にリアリティがある。あとネット会議は割りと映像凍ることもあるから。

 これは実験だから良いけど、こんなことが手軽に出来るようになってきたのでは、本当に詐欺などに悪用されると怖いと思う。一種のアバターみたいなもんだから、もう映像で喋っていても相手が本物なのかわからなくなる。今はまだ稚拙な面もありますが、すぐ本物の人間と全く見分けがつかなくなるでしょう。
 相手が男なのか女なのか、若いのか年寄りか、そもそもAIかもしれない。もうこんな時代になっているんですね。
 オレオレ詐欺に悪用されたら、どう防げば良いか…。

 声をリアルタイムに変換することもできますからね。ボイスチェンジャーみたいなもんもあるし、最近ではボカロ技術の応用で、ボカロの声で喋ることができるソフトも出て来ました。自分は試してないので品質はわからないが、これもパソコンで「誰の声でも喋れる」ようになるのは時間の問題でしょう。(低品質のものなら、ワークステーション等でもうあった気がする)

 上手く使えば一人で実写映画が撮れる可能性もあるが、例えば俳優さんを勝手に出演させてしまうことすらできるので……。
 もうネット上の映像や音声は信用できない、という世界が来るかもしれません。
 そんな時、最終的に真実性を担保するのは、信頼できるメディアの報道……ってことになってくる(そうして貰うしかない、心配だが)。あとは刑法を改正してそういう行為に重い刑事罰を科すか。アイコラ画像みたいなのは、ちゃんと取り締まりをやってほぼ公共の場からは絶滅しましたよね。

 なんだかわけのわからないデジタル泥沼みたいなところへ、世界は突っ込もうとしている感じがする(w)。個人番号カードを端末に差し込むと、公的機関が通話画面に認証マークを出すようにしますか? まあそのマークも偽造されますね(汗)。

神童モーツァルトの真実?

 ラジオで聞いたモーツァルトの面白い話。幼い頃から神童として各国で知られていたのは、父親が幼い姉とともに演奏旅行でヨーロッパ中を連れまわしたからなのですね。モーツァルトの生まれた宗教国家ザルツブルグは、現在のドイツのあたりで(まだ統一ドイツはない)、それでも周辺で一番強力な国だった。そして宗教国家(カトリック)の方針として、神童=神の奇跡であり、それは広く世界に示されなければならない、という使命があったらしく、それで旅の許可が出ていた。
 この演奏旅行というのが、実は半分くらいは見世物興行といって良いものだったらしく(w)、幼い姉弟に目隠しして楽器を弾かせたり、初見の楽譜を一瞬だけ見せて演奏させたりと、ちょっと大道芸に近いものでもあった。モーツァルトの姉も実は大変な才能だったが、むろん当時は女性が作曲家になるなど考えられなかったから、ある時期からは花嫁修業に専念したらしい。
 父親というのがなかなか山師的だったというべきか、子供の才能を利用して隙あらばどこか有力な国で仕官の道を探ったりということもあった。

 無論それだけではなく、モーツァルトを各地の有力音楽家に会わせ、あるいは学ばせて、どんどん音楽家としての力に磨きを掛けていった。一種の留学としての意味もあった、とのこと。
 この演奏旅行、当時は馬車での長時間移動でずいぶんハードな生活だったらしいけど、それでも姉弟はそれに耐えてやりきった。
 だから、モーツァルトが天才だったのは事実だけど、こうした父親のスパルタ英才教育もあって才能を開花させていった、ということらしい。(幼い頃から人前で演奏していたら、今でいうストリートライブ出身みたいなもんで、度胸や勘が自然とついたでしょう)
 で、8歳で交響曲を書く、という驚くべきことを成し遂げているわけですね。
 それにしても(その後を見ても)、名声の割りになかなか楽な人生とは言い難いようです。生まれてから死ぬまで同じ街を出なかったバッハが、当時の偉人としては一番幸せだったかもしれません。

映画「レディ・プレイヤー1」観た

 VRゴーグル装着で遊べる超巨大ネットゲームの世界、「オアシス」を舞台にした映画。……というとよくある感じの話だろうと思われるかもしれませんが、正にその通り(w)。ただこの映画の醍醐味は臆面もない他作品からのキャラの引用、パロディというより楽屋オチみたいなことを堂々とやっていること。ハリウッド映画はもちろん日本アニメ・特撮のキャラもたくさん登場します。ネットゲームでプレイヤーがアバター(自キャラ)として使っているという設定です。
 創業者が亡くなるが、ゲーム世界で謎を解いて幾つかの鍵を集めれば、巨大産業となったゲームの運営権を相続させると発表され、世界中のプレイヤーや大企業がこぞって参戦……という、まあ宝探しのようなストーリー。(以下ネタバレ)

 最初のカーレースのシーンで、キングコングが襲ってくるんだけど、これってどこかで見たな……と思ったら任天堂のドンキーコングだった(笑)。映画「シャイニング」の世界が舞台の試練があったり、ゲーム中でアタリのゲームをプレイする試練があったりと、まあ飽きさせない。
 面白いのは、主人公のアバターをホログラムで現実に投影して、敵大企業の社長がアバターと会話するシーン。ARですな(今の技術で可能)。敵に捕まってゲーム世界で強制労働させられるヒロインが、外れないゴーグルを付けられてしまったり。小ネタが笑えます。
 主人公とヒロインがゲーム中のディスコ(死語)でデートするシーンで、ビージーズが掛かっていたりして、バブル世代はフィーバーできるぞ。

 最後の決戦シーンでは、ガンダムやメカゴジラ、春麗など色んなキャラが総出演。何にも考えずに楽しみたい時に良い映画です(w)。
 それにしても、一応実写映画のくくりだけど、映像の8割以上はCGじゃなかろうか。もうハリウッド映画もアニメなのか実写なのか区別が曖昧。そういった意味では、だんだん人間の役者も要らない方向に来てるのかもね。

バイオリンのミックス処理

……といっても例によってサンプリング音源なのですが、今の音源は超リアル志向で、扱いにくいものは扱いにくいままで音源化されている物が多いから、生収録と同じミックス処理をしないと、ちゃんと普通に楽曲の中で使われているようには聞こえないんですね。(まあ多少はプリプロセスしてあるが)

 で、バイオリンですよ。とにかくそのままだと音が細いわ、アタックが揃いづらいわ、掠れ・ヨレなんかも含まれているわで、散々だよ(w)。Spitfire AudioのSolo Violinだけど。余程酷い製品なのか?デモ曲と違う!……と思ったが、レビューやユーザーデモを聞いてみるとそうでもないから、使い方やミックスが悪いのだと悟った。うーん、とりあえずこれはポピュラー音楽用というより、どうやらクラシック・劇伴向けの製品のようだ。
 とりあえず定位がなぜか左に寄っているのと(たぶんこのままアンビエンス込みで、フルオケで弾いてる感じになるからだろう)、クローズ(接近)100%にするとモノになるので、そのあたりで処理が必要。これをバンドサウンドの中に組み入れるにはどうしたらいいか。
 どうもコンプを2段掛け位で抑揚をペタンと潰さないと、みんながイメージするバイオリンの音にならないことが解った。しかもこいつは結構強めにアタックが出せるんですね、ベロシティで。なので気をつけないと「コンプ圧縮丸出し」の音にもなりがち。
 サンプルの品質はまあまあだけど、こういう処理がやっかいで。まだ試行錯誤の途中。バイオリン複数台=ストリングスならともかく、ソロバイオリンはまた非常にやっかいな代物だと判明しました。(他の製品だとそんなことないのかなぁ?)
 オーケストラ音源に入っているソロバイオリンはわりと扱いやすいが、そのままソロで聞かせるのはやはりキツイ(大抵オマケレベルなので)。
 普段あまりアレンジで使わない楽器は、こういった地道な研究が必要ですね。そういう仕事が来たら困っちゃうもんな。

ネットラジオ配信4/9

 ヒカリ真王子さんがゲスト出演しているネットラジオ第2回が配信になりました。
 当方で制作させて頂いた「翼の王国」という曲もOPとEDで流れています。
 (☆ちょっとムフフなこぼれ話もあります)

2021/04/09【美遊空間】【第137回収録】(突撃電話収録)ちよ媛の、あなたのそばに・・・居させてください【カテキンボイス ヒカリ真王子さん『うたうタクシードライバー』第二話】
https://honmaru-radio.com/biyuukuukan_mainichi0137/

春の健康問題?

 今年は花粉症のアレルギー反応が、くしゃみ・鼻水より身体の倦怠感の方へきて、なかなかグロッキーです。スギ花粉だけでなくいつの間にかヒノキにも反応しているし、これ以上酷くならないことを祈るばかり。アレルギー反応がある人はコロナワクチンにも注意が必要らしいし(自分は軽い食物アレルギーもある)、打っても大丈夫だろうかと今から心配している。ただ、もう春なのに医療従事者にさえワクチン接種が全く進んでないところをみると、これはこのまま夏突入で感染者減、みんな油断したところへ冬到来で再びパニックという感じでは? 今の日本政府の対応ぶりからするとその時でもワクチン接種は進んでないでしょう。僕らが思っているよりはるかにポンコツ政府なのでは…。アメリカで全国民接種が終わってからしかワクチンが日本に入ってこない予感(汗)。

 今年はどうやら乗り切ったが、冬場はウイルス性胃腸炎も怖い。O157の類ですね。類と書いたのは、これまた変種が一杯あるからで、自分も何年か前やりましたよ。大げさでなく2週間全く食べ物を受け付けず、水を飲んでも吐いてしまうくらい。これまた特効薬はなく、安静にしてるしかないんですね。自力回復できなきゃ死亡です。結局この時も病院の深夜外来で点滴を打って貰ったなあ。で、体重が10kg減りました。
 こうしてみると、よく生きてるなあ、自分(笑)。案外こういう風にフラフラしてる方が、暖簾に腕押しで良いのかもしれんが。

 などと弱気になっている場合ではなく、今日も音楽制作は続いていくのであった。

(自分の住んでいる名古屋市・愛知県は、三大都市圏の中では蔓延防止対策指定はしないようだ、感染者がそれほど多くないので。ひとつには名古屋の道路の広さが、案外三密を避ける方向に働いているのかもしれない。あと夜が早いw)

バターノート物語

 突然ですが業界で語り継がれるべきジャズ物語シリーズ。

 若き日のハービー・ハンコックがマイルス・デイビス・クインテットでピアノを弾いていた時のこと。

「最近僕スランプだなあ。つまらないソロしか弾けてないのがわかるし。……そうだ、マイルスに相談してみよう。あのーボス、ちょっと相談が」
「ソーワット?」
「なんか最近スランプなんすよー。色々グダグダで。どうしたらいいでしょうか」
「バターノートを弾くな」
「あ!バターノートですか、はいはい、あれですね。そうじゃないかと思ってました、有難うございます」
(後ほど)
「バターノートって何だっけ? 困ったなぁ(汗)」

 ちょっと脚色しましたが、20年くらい前雑誌で読んだハンコック先生のインタビューだと、実際こういうことがあったそうです。
 なんなんでしょうか、バターノート。直訳だと脂っぽい音符てことになるけど。当時読んだ記憶では、コードの中で調性感やその後コード進行を決めてしまうような音、みたいなことが書いてあったのです。今の知識だと、ああたぶんあれだな、とわかるんですが、それが正解か確証がない。

 ところが、時は2021年なのですよ諸君(笑)。なんと、ちょっと前Youtubeを開いたら、お勧めのところに正にこのことを言っているハンコック先生の動画が出てきたよ、こりゃビックリ。

ハービーがマイルスから受けたアドバイス 「バターノートを使うな」”Don’t use Butter Note” Important musical tips given by Miles
https://youtu.be/kErrRt-Wtag

 正解は、4和音の3度と7度の音、それがバターノート。正に「脂っぽい」音で、これを弾いてしまうと、結局理論的にはありきたりの進行しか出てこない(あるいはその可能性が高い)。で、結果ソロが陳腐になってしまうんですね。
 実際、ピアノを弾いて説明しているので、みんな絶対見た方がいいぞ。こりゃ世界一贅沢な授業だ。

 自分の記憶だと、ハンコック先生がマイルスに相談したって体だったけど、動画ではマイルスが察してあちらからアドバイスをくれた、となっている(ええ人やw)。
 結局、考え抜いてそのことに気付いて、面白いソロが出来るようになってスランプ脱出、マイルスバンドをクビにならずに済んだそう(笑)。

 制作屋としても、このことは応用できそうですね。別に絶対弾くなと言っているわけでもないし、また逆に典型的なモダンジャズピアノを書きたいなら、バターノートを積極的に弾けばいいってことでもある。

 わかる人にしかわからないアドバイスをする辺り、さすがにマイルスはマイルスだなあ、と。

「Eベースは偉大な発明」説

 現代の音楽制作環境は、パソコン上でソフトシンセだけでなく、サンプリングでの生楽器も縦横無尽に使えるわけですが(それも極限までリアルなものが多い)、こうなると理論上は古今東西のどんな楽器でも組み合わせて曲が作れるわけです。オーケストラをバックに三味線が演奏してもいいし、ラテンパーカッションとカリンバとシタールが共演しても良い。とはいえ前衛音楽でなく、一応人様に聞いて貰ってナンボの商業音楽なら自ずから制限もあるわけですが、どんな編成にするにせよ、意外と選択の幅がない部分があります。制作やっている方はもうお気づきでしょうが、それは(楽器でなくパートとしての)ベース。

 普通の音楽(機能和声を主体にした西洋音楽)だったら、ベースはとても重要なパートですね。コードのルートを決める部分であるし(ここがしっかりしてないとコードが正しく響かない)、大半のポピュラー音楽にとっては、ドラムスと一体となって楽曲のグルーブ感を司るパートでもあります。普通のミックスでは意外と聞こえづらいことが多いのですが、とはいえ重要度は高い。ご存知の通り、ここで使われるのはほとんどの場合エレキベースなのです。

 実は、低音にも関わらず音がクリアで(ブーミーでもなく)、しっかりダイナミクスが付けられ、細かいグルーブ感も自在に出せるという低音楽器は、案外ないのですね。

 鍵盤ならピアノ、オルガン、エレピ、どれも違うし(各々他の仕事あるし)、可能性があるならクラビネットか。あとキーボードならシンセベースくらい。

 金管楽器ならチューバ、ユーフォニウムなど、ただ音がブーミーで独特なのでハマる曲が限られてくる。
 木管ならベースクラリネットかファゴット、これも独特で汎用性は低い(音量も出ません)。

 弦楽器ならウッドベース、これもジャズならともかく、色々な制限がある。(ミックス処理も必須) 弓弾きならまた曲が限られてくる。

 いかがですか? こうしてみると、意外と汎用的に使える低音楽器というのはEベースしかないんですよ。エフェクターにも通せるし、アンプに繋いでもダイレクトでも良い。クラシック以外どんな分野でも使えるスーパーワイドルカードという感じ。(ジャズでも使われる、代表例ジャコを思い出せw)。チョッパー(スラップ)という強力な奏法もあるしね。
 ミックス的にも、一般に低音楽器は録音や処理が難しく、ライン録りできるEベースは非常に楽ということもいえる。もちろんこれはPAでも同じ。

 逆に、Eベースが無かった時代はどうやってバンド演奏等でベースを鳴らしていたんだろうと不思議になる。ディキシーランドジャズの時代はチューバだったり、モダンジャズも最初期はウッドベースを弓弾きしていたと聞いた。
 あとはピアニストがベース音を鳴らしたり……という方法でしょうか。(オルガンなら足鍵盤がありますね)
 バンドアンサンブルにとってEベースはEギターと並んで、いやもしかしてそれ以上の大発明だったかもしれません。……という話でした。

(オーケストラだと、コントラバスとチェロをオクターブユニゾンで鳴らしたりして、意外とベースパートの安定化・音量稼ぎには苦労することがある。そこもEベースなら問題ない)