月: 2023年5月

テープで新感覚エフェクト

 ラジカセが音のスムーサーになるって話は書きましたが、それは録音メディアとして「テープ」の良い部分(特性)が出たからでした。ところが、良い部分があれば悪い部分(?)もあるわけで……。メモ的に書いてみます。

 テープ処理したトラックを使った最初の曲は、楽曲のほんの一部分(2小節)だったんですね。DAWで録った元の音は使わず、テープ録音のフレーズに差し替えた。
 これが上手くいったので、次の曲では、打ち込みっぽさが抜けないトラックに、テープの音を薄く重ねて生楽器感が出せないかやってみた。結果は非常にうまく行って、スムーサー+リアライザーみたいな良い仕上がりになりました。

 ただ、曲の前半は良いものの、サビくらいになってくると、だんだんフレーズが二重に聞こえてくる。特にギターの刻みだったので大変目立ちました。
 察しのよい皆様はもうおわかりでしょうか……。そう、テープ録音→再生したことで、テンポが狂ってしまっていたのです(w)。カセットテープレコーダーは、往々にして再生/録音速度が相当アバウトなんですね。再生と録音がきっちり同テンポなら、理論上はこういうことは起こりませんが……。
 弦央と同年代か年上の皆さんは、カセットがこういうものだと体験的に知っているはずです。ラジカセどころか、カセットデッキでさえ結構怪しい。自分も、今回のことがあるまですっかり忘れてましたが、100Vで動かしてもこんなもので、電池駆動だった日にゃ、最後はモゴモゴ言い出しますからね(笑)。

 で、今回はどうしたかというと、演奏がない部分でテープのWAVを分割して、適宜頭を合わせて解決しました。厳密にいうとフレーズの最後では若干のズレがあるけど、この程度なら問題なかった。というか、これ一種のダブルトラッキングといえなくもない。(テンポが狂っているということは、音程もその分変化してます。デチューンですな)。

 弊社は転んでもタダでは起きません(w)。なんと、スムーサー+リアライザー+ダブルトラッキング(ディレイ?)のエフェクトとなってしまいました。これは新しいな。プラグインではまず出せない味です。
 いやー、アナログ機器は本当に面白い。

プレートリバーブ試作

 プレートリバーブってありますね(プラグインでなく実機の方)。今回はその試作の話。

 リバーブの歴史を簡単に書くと、最初はエコーチャンバーという仕掛けで残響を作っていました。これはお風呂場エコーそのもので、タイルなどを張った専用室にスピーカーとマイクを置いて、部屋の反響でリバーブを拾ってました。これだと場所を取るし大掛かり過ぎということで開発されたのが、プレートリバーブ。ドデカい鉄板に振動子(スピーカーと同じ)を押し付け、貼り付けたコンタクトマイクで振動を拾って、その結果残響を作ってました。
(これでも場所を食うということで開発されたのがスプリングリバーブ、その次がテープやBBDが出てきます)

 で、そのプレートリバーブですが、調べたら構造も簡単だし、小型のものなら自作できそうな気がしてきた。とりあえず実証実験的に、ありもので作ってみようと思い立ってやってみた。

 まず振動子ですが、これは小型スピーカーで代用することにした。実家の電子部品箱に1個入っていたはずだがこのン十年間に紛失w で、パソコン用の外付けスピーカーユニットを分解して取り出した。4Ωだったがコーヒー缶ほどの直径でいい感じ。

 次に鉄板ですが、当時の名機と言われたEMT140なんかは、畳3-4畳分くらいの面積がある鉄板を使ってます。さすがに今回は無理なので、ダイソーでA4サイズ/0.2mm厚の鉄板を買ってきた。ほんとに何でもあるな(w)。これなら前述のスピーカーで楽にドライブできそう。で、鉄板をマイクスタンドに吊るし、コンタクト(ピエゾ)マイクを貼ります。

 当時のプレートの振動子は、スピーカーでいうとコーン紙がなく、中央の電磁石に円錐ヘッドをつけて、テンションをかけて鉄板に押し付けていたらしい(正式名トランスデューサー)。
 今回もコーン紙を取って同じにするかと思ったが、まあまずはスピーカーのまま押し当てることにした。

 スピーカーは、死蔵していた小型中華アンプでドライブします。アンプにはラジカセで再生したCDを入力。
 ピエゾはオーディオI/FのHiZ(ギターと同じ)に繋ぐ。これをヘッドフォンでモニターします。
 今回は試作なので、スピーカーは固定せず手で鉄板に押し当てた。

 こんな簡単な仕掛けでリバーブが掛かるのかと半信半疑でしたが、音を聞いてみると、ちゃんと残響がついています。さすがにプラグイン等の美しい響きではないが、色んな意味で「脱力お風呂場カラオケ」(字面から感じて下さいw)でした。曲の特定楽器/音域のところで急に残響が大きくなったり、たぶん固有振動数なんだろうけど、面白かった。

 スピーカーを当てていると、鉄板がビンビン振動するのがわかりますね。あと下手に鉄板をつついたりすると、ドーンという音が入ってしまう。このあたりはスプリングリバーブと同じで、物理エフェクターの面白いところ。当然、スピーカーの振動が伝わった鉄板も「鳴り」ますので、深夜には使えないなこれは。

 実は、どうせならもっとビザールな感じの音を期待していたんだが(あまりに本物と比べて構成要素がプアなので)、わりとマトモに中途半端なリバーブとして動作してしまった。
 今後はビザールな鳴りを求めて、もう少し追及してみたい。

進化するメジャーレーベル

 少し調べることがあって、某大手レコード会社のサイトを見ていたら、なんとトップページにサブスク配信サイトのプレイリストが貼ってある。しかもかなり画面の上のほう、目立つところにウィジェットが。「春に聞きたい曲」とか「気分が明るくなる曲」みたいにテーマ別になっていました。
 もうこんな時代なのかと感心、確かにメジャーは無尽蔵に音源抱えているから、これ風のリストは幾らでも作れますね。もちろんこれらのプレイリストは大手公式です。
 本音はCDを買って欲しいのでしょうが、こうでもしないと聞いて貰えない、機会損失になっちゃう、これでパッケージ商品の販促になれば、といったところでしょうか。ちょっと見たところでは割と古めの曲が多かったようだけど。

 配信サイト別にプレイリストが作られていましたが、やっぱりウィジェットをオフィシャルで提供しているサイト、SpotifyやApple Musicが訴求力あるな。他社、例えばYoutubeなんかは、そういう仕組みがないので別窓でサイトが開く方式。なんでお金持ちGoogleがウィジェット提供しないかは謎。

 こうしてみると、レコード会社に求められる役割も時代によって変わってきているんですね。もうライブ映像商品はいうに及ばず、随分前からアニメ制作まで手がけているところもあるし。もっとも映像系も、今は配信が普及してパッケージは苦しいんじゃないかと思われる。オマケ商法で凌いでいるようですが。
 昔はたくさんあったレコード会社も、バブル崩壊後にどんどん消えて他のところに吸収合併されて、今は統廃合が終った「あと」の時代ですからね。
 昔のように新人を育成する体力を持っている会社は、少なくなっているんじゃないかと思います。
 蛇足ながら、古い音源を管理していく手間も、実は膨大だったりするんですね。特に物理媒体にレコーディングした昔の楽曲は。(で、まれにマスターテープを紛失した、焼失した、なんて事故が起こる)

 未来の商業音楽はどうなるのか、どんな形態でリスナーに聞かれるのか、そしてそれはビジネスとして成立するか……考えているとなかなか面白いテーマです。

微小ノイズ

 ミックス作業をしていたんですが、制作手順としてMIDI制作はABLITYで、ミックスからはProToolsにしているんですね。で、今回の曲はモジュラーシンセとハード音源がアレンジの主体なので、レコーディング作業も大量に発生して、20トラックくらい録ったわけです。音質向上のため、この録りもProToolsで行っています。(やっぱりABIで録るのと音が違う)

 ところがいざミックス用のヘッドフォンで全体を聞いてみたら、やけに音が濁って?聞こえるわけです。最初は疲れてるのかなーとか(体調が悪いとこういうことはある)、ヘッドフォンが寿命かな、とか色々考えた。ただとりあえずどんどん作業を進めていたら、この濁りがだんだん消えてきた。それで気付いたんですが、これなんと、20トラック分の微小ノイズが重なって聞こえていたのです。
 実際は、演奏のある部分だけ録ったりしているトラックもあるから、10トラック強かな? このノイズを除去したら、すっきりしていつもの聞こえ方になった。

 このノイズ、波形表示を見ても見えないし、アナライザーにもほぼ表示されないのですが、これだけ重なると濁りとして耳に認識されるんですね。さすがアナログ録音データ。
 これが、ソフトシンセやサンプリング音源の直接バウンスだと、アナログエミュの何かを挟んでいない限り、無音部分は本当に信号ゼロですからね。フルデジタルパスだから。
 これまでそっちに慣れていたからそんなもんかと思っていたが、レコーディング作業が発生するスタイルになると、微小ノイズは気をつけないといけないと思った次第。

 実は前回もこれにちょっと近いことがあって、その時も丁寧に処理したけど、今回は特に酷かった。で、処理の方法ですが、ProToolsには「ストリップサイレンス」という機能があって、演奏波形がない部分(つまりノイズ部分)を、スレッシュホールドをかけてオフラインで自動カットしてくれるんですね。手動でやるとメンドイが超便利です。
 ドラムのトラックみたいに、ほぼ鳴りっ放しのやつは、GATEプラグインでやはり微小ノイズ部分をカットする。(CPU能力食うが動的にパラメータを弄れる)

 ただボーカルトラックは、ブレスの関係があるので、この自動処理はやらないほうが吉。でないと必要なブレスを消したり、逆に不用なブレスが残ったりしかねない。手動で消していくわけです(あるいは一瞬ボリュームを絞るか)。

 ProToolsは、噂に聞いていた通りWAV周りの便利機能がかなり搭載されている感じ。処理後の結果も良い(こんなはずでは…ってのがないw)。痒いところに手が届く。いまのところ2段構えの制作体制はいい感じに進んでいます。

時代の音

 NHKラジオR1を聞いていたら、80年代の曲特集が流れていて、これは休日祝日に時々ある番組ですが、ここ何日かは連続だったようです。こうやってまとめて聞くと、80年代の曲というのは本当にわかりやすい特徴がありますね。8ビートのFM音源シンセベースだったり(DX7だったりするんでしょう)、スネアにゲートリバーブを効かせた独特の「ドゥン」という音、デジタルリバーブ初期のハード的制約からくるダークな残響、ギターの歪ませ方や使い方、シンセもポリフォニックになりフィーチャーされています。こうやって書くと特徴だらけのコテコテな感じですが、当時はそんなことは意識されずに、色々なアーティストやクリエイターが時代の中でベストな楽曲を作った結果、その時代のスタイルが形成されて音のなかに映りこんでしまったわけですね。
 もちろん経済もバブルで非常に勢いがあったし、予算も潤沢で音楽業界もイケイケの活気があり、名曲が次々に生まれた時代でもあります。アイドルも全盛期、いわゆるシティポップも全盛となっていました。

 で、考えたわけです。
 50年代の音、60年代、70年代と、やはり時代の音ってのはあり、ギリ90年代もあるかなあ、その後はというと……果たして? 00年代、10年代の音ってあるのかな? ボカロやヒップホップ、ラップなんかがそのピースに当てはまっていくのかもしれないけど、時代の音、とまで言えるかというと……。さらに今2023年ですから、20年代の音というと、更に曖昧になってきます。うーん、大きな流れとしては10年代からはEDM、広義のEDMなのかもしれませんね。クラブミュージックやそれに派生するPOPSまで含む感じの。
 で、今が広義のEDM(の続き)なのだとしたら、確かに音楽作っていてそんな気はしてきてます、それがまた発展していくのが20年代なんじゃないか。それが後から振り返ったら「時代の音」になる、という予感がしないでもない。たぶんこの10年間で加わるのは、世界中でマニュアル化された音楽制作に楔を打ち込むかのような、プリミティブなシンセサイザーやサンプリング音源の使い方……かもしれません。あるいはエフェクトプロセッシングの方も含む。時代の標準的の道具を使うとそうなるはず。DAWとホームスタジオが今の音楽制作環境のスタンダードですから。そこに何かが加わるイメージ。
(生成AIについてはまだわからない。今のところ総合的には混沌? 音楽は究極の秩序、低エントロピーの芸術だから…)

 流れていく日々のなかでそんなことを考えてみました。

(追記:00年代の音、あったよ…。「音圧最終戦争の結果、グロテスクに歪んだ聞くに堪えないサウンド」。いやな時代の音だなw 多くがアーティストの責任ではなかったと思うけど。これで年代が繋がりましたね)

テープ・スクラッチ?

 最近モジュラーと自作系のことしか書いてない気がするが、今回もそんな話題。

 引き出しの中に、壊れた古い携帯型カセットプレーヤーが眠っていたんですね。いわゆるウォークマンタイプのやつ、といってもこの比喩がもうヤングピーポには伝わらないが(w)。

 電池とカセットを入れてプレイボタンを押すと、ヘッドフォンから「サー」と背景ノイズは聞こえるが、テープが一切回らない状態。カセットの故障あるあるです。
 どこかで、こういう場合はモーターと回転軸の間のゴムベルトを交換すると動くことがあると読んだので、ダメ元でネジを空けて裏のカバーをパカッと開けてみた。
 こんな感じ。

 右上の白+黒の丸いプーリーがテープの回転軸で、その下がモーターの駆動軸。もう取り払ったが、確かにちぎれたゴムベルトが両者の間に絡まっていた。この状態で電池を入れてプレイボタンを押すと、モーターだけがむなしく空転します。

 手持ちの輪ゴムをベルト代わりにつけてみたが、サイズが合わないらしくすぐ絡まって無理でした。たぶん補修部品のゴムベルトが必要。

 ここでふと、プーリーを手で回したらどうなるか……と思いたった。やってみると、モゴモゴ……と音が聞こえるではないですか(笑)。手だけで回すのは限界があるので、割り箸を突き立ててぐるぐるやると、結構うまく回った。モゴモゴがモゴゴ……くらいにはなりました。カセットは本来結構早く回っているんですね。毎秒4.7cm程度だと思った。たぶん手動では毎秒2cmくらいが限界。(瞬間接着剤で割りばしをプーリーに固定しようとしたがすぐ取れて無理だった)
 いわゆる「テープストップ」というエフェクトがプラグインにもあるけど、あれと同じようなことが手動・完全アナログで出来てしまいます。ディスクスクラッチにも近いかもしれない。ただこの状態だと逆回転はできません。テープがゆるむだけ。

 音楽的にどうこうの話ではありませんが、サウンドエフェクトしては面白いので、壊れたカセットが家にある方は一度いかがでしょうか。(たぶん構造が単純ですぐ分解できる、こういう携帯プレイヤーが向いている。ラジカセになると、もう分解して駆動軸を出すのも大変な気がする)