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映画「YESTERDAY」と音楽業界

 イギリス映画「YESTERDAY」を観た。売れないシンガーソングライターが、ビートルズが存在しない世界に飛ばれてしまい、そこでビートルズナンバーを歌って成り上がっていく話です。あらすじだけ聞くとなんだかなぁ……で、自分もあんまり期待せずに見たのですが、音楽業界のディテールやラストの決着が見事で、楽しめました。ということでその辺りを絡めて書いてみたい(以下ネタバレ)。

 主人公は本当にショボくれた感じで、多分30歳の壁の前で辞めようと思っていた矢先、ビートルズ曲のお陰でライブハウスで大ウケに。といってもそこから人気が広がるわけでもない。
 そこへ、マネージャー兼女友達が、ある男性から名刺を渡されるが、この人は自宅に小さなスタジオを持つ(たぶん)フリーのエンジニア。感動したのでぜひ手伝いたいと、そこで無料でレコーディング&ミキシングしてもらい、ビートルズ曲の詰まった自主制作CDを作る。
 そのCDをバイト先のスーパーで片っ端から客にタダで配り、ようやく少し名前が街で知られるようになる。これで自分も全国区に……という期待とは裏腹に、ローカルTVに出られるくらいで、そこでも「街の人気者」扱い。曲は超一流なのに売れないのは自分の問題だ……と落ち込むのですね。
(この時点でWebサイトもあり、そこで曲も聞けるようになっていたと思う)

 もしこのままならこれで終りですが、そこは映画なのでw、(本人役で出演の)エド・シーランがテレビを見てて、実はご近所さんで主人公の家へやってくる。なんと自分のロシアツアーの前座で歌ってくれ、という。ここから主人公の大成功物語が始まるのですが、これも前座で大ウケし、大手プロダクションのシーランの女マネが目をつけたから、なんですね。
 いくら曲が良くても、自主的に活動する限りは、まず大スターまで上り詰めることは無理、という厳しい現実が、映画のストーリーの中に巧みに組み込まれているワケ。(皆無とは言いません、実際今はあるので。いずれにせよどこかの段階でメジャーに所属するという形になると思います)

 この女マネが、LAに呼びつけた主人公に、「今からあなたに毒杯を飲ませる。飲めば名声もお金も手に入る。さあ毒杯をくれと言いなさい」と迫るんですよ(w)。(書き忘れていたが、主人公はイギリス在住、元の女マネとは告白されたが別れている)。正に悪魔の誘いだが、その意味はすぐ明らかになる。
 LAの最新鋭の設備が揃った巨大スタジオ(ほぼホール大)でのレコーディング、メディアでの大宣伝とネット先行配信のあと、いよいよCDアルバムの制作・発売。100人もの人間が出席する最高宣伝戦略会議(ほぼ洗脳セミナーのノリ)で、メディア総動員のプロモーションが決定・開催される…。まさに毒杯で、飲む覚悟がないと対処できないでしょう。巨大資金と人員を投入した活動で、大スターが「作られる」過程なわけです。むろん曲が良いのは前提だが、これでも実際は売れない人も多いわけで…。
 つまり主人公はあからさまに「商品」となり、大ビジネスの中心に据え付けられる。これが現代の音楽ビジネスなんだな、とわかる仕掛けでした。

 実はこういった世界的な大ビジネスに音楽を仕立て上げたのは、誰であろうビートルズだったと言われますね。そのあたりも製作陣は意識しているのでしょう。
 物語は、主人公の他にもいた元の世界からの迷い込み組の訪問や、意外な人物の最高に格好いいアドバイスがクライマックスとなり、実に良い落としどころへ収まります。監督は大のビートルズファンだそうで、これが描きたかったのかもしれない。
 なかなか爽やかなコメディでした、このブログの読者なら多分面白いと思いますよ。いまアマプラで見れるので、機会があれば。

(主人公は、有名になればなるほど孤独になっていく。大スターはみんなそれに耐えて音楽活動をしているわけでしょう。だから、時々心を病んでしまう人も出てくるんですね。やっぱり欧州の映画は深いな。
 あと、今は曲は十数人で書くのに(コライト→チーム作曲)、お前は一人で曲を書いているのか…と言われるシーンが面白かった)

使える音源・使えない音源

 皆様お馴染みNI Komplete(U)に入っている音源の話。

 買ってから一度も使ってない、というか存在すら忘れていた音源があって、それが「The Giant」(アコースティックピアノ音源)。
 昔一度使おうとしたら音がなんだか不自然だし、ビルみたいなサイズのアップライトの絵が描いてあるし、なんじゃこりゃ色物音源かと思って放置してたんだけど、ちょっと前思い出して試用してみたら、これシネマチック音源なんですね(いわゆる劇伴用)。そして、ピアノ鍵盤以外の部分を弾いた時の効果音系のやつも入っている。ああそういう用途なのかと納得。しかしどちらにせよ歌物ではなかなか使う機会がなさそう。

 効果音系の音源は使う機会がほぼないのは仕方ないにしても、「Action Strings」なんかも使えそうで使えません。これも劇伴によくあるストリングスの刻みを簡単に再現できるやつですね。
 あと民族音楽系のやつ、ガムランのとかインド・中近東なんかは仕方ないにしても、キューバのやつもなんか駄目。この系統は音色を作り込みすぎていて、本当に民族音楽やりたい時くらいしか使えない。それかやっぱり劇伴か。歌物でこんなにアクの強い音源持ってきたら全体のバランスが悪くなるもんね。
(その意味ではUVIの「World Suite」はよく出来ていて、絶妙のバランスで歌物や普通のインストにもハマります)

 で、結局使うのは……「Abbey Road Studio Drummer」「Session Strings Pro」「Session Horns Pro」「Alicia’s Key」、あとScarabeeのベース全般。なんだか夢の無い話ですが仕方がない。(うちはまだK10Uなので、クロスグレードしたら増えるかな?)あと、ARのドラマーシリーズは、適宜替えて使っています。さすがに録音が抜群に良い。

 Kompleteには不思議と雰囲気ボーカル音源が入ってないので、次の版ではくるかもしれませんね。まあこれもシネマチック音源になっちゃうんだけど(w)。
 クワイア音源も欲しいといえば欲しい。いまはKontaktのFactory Libraryの低品質のしかないので。

 全体的に、歌物制作勢にとってはシネマチック音源というのは鬼門です。楽器音源というより効果音系の用途へ最適化されてることが多いので、作り込みが結構甘かったりする。なので、歌物勢の皆さんは購入時に注意したほうがよろしいかと思います。(プロ諸氏には釈迦に説法かw)

(追記:今日「The Giant」をもう一度確認したら、非シネマ系のパッチもありましたわ。しかしやっぱ楽器音源としては音が変)

理想のマスタリング

 ミックス後のファイル(2mix)を最終処理する工程、マスタリング。一応、正確な用語では「プリ・マスタリング」ですが。本来のマスタリングはアルバム収録曲すべてのレベルや音質を、リスナーが続けて聞いても違和感ないよう揃えるものなので。
 ただ今は配信ならバラ売りだし、だんだん区別も付ける必然性が減ってきているのは事実。(こうしてみると、コンピ盤やベスト盤は、曲ごとに色々バラバラだから、マスター作りは難しいんだろうな)

 で、プリ省略して書きますが、理想のマスタリングとは、ズバリ限りなく透明であること、でしょう。音圧を上げるにしても、できるだけ2mixのイメージやダイナミクス感を変えない。色をつけないってことです。もちろんステレオイメージも変えない。
 そんな処理で済む2mixを用意しておく、という前提がありますが。つまり、何か曲のイメージを付けたいなら、ミックスの時にやっておく。もっといえばアレンジの時に予めその辺りも考慮して作るってことですね。幸い弊社(者?)の場合は上流から下流まですべてワンストップでやってるので、こういうことが出来るのですが。これが分業だったりすると、そうはいかないけど。

 最近ますますこれは確信に変ってきてます。マスタリングの時、つい色々試してみたくなるけど、結局いつも余計なことをせず一番素直なマスター用のEQとマキシマイザーを差してそれで終り。これが一番良い結果が出る。ミックスで全てやっておけば、あとは弄るべきじゃないわけです。幸い音圧戦争もとうに終り、あまりに音圧上げた曲は歪んで聞きにくいよね、ってコンセンサンスが出来てると思います。そうするとマスタリングで2段コンプとかも、余程のことがない限り要らないんだよなあ。

 まあ、マキシマイザーの類も、色がつくようなヤツは、他のミキサーさんがやった曲で、音質を揃えたい時には要る。ただ、アナログ感を予め出した2mixに、アナログ感のあるマキシを掛けたりすると、今度は歪んで聞きづらくなるもんね。(だから手持ちの「PSP Xenon」なんか、いいプロダクトだと思うけど結局いつも出番がない)

 逆に「テラMIDI」感のある2mixやパラデータだったら、徹底的に色をつけた方が良い結果が出るんだけど。(アビーロード系のはっきり色がつくコンプやEQが良い仕事をしてくれる、そんな時は)

 ここ数日はコロナのこともあり、ますますヒキこもって音楽制作と年貢計算に精を出しています(w)。

ビートルズを聴いて育った世代

 「ビートルズを聴いて育った世代」の音楽を聴いて育った世代…。はい、まあずばり我々くらいの世代ですねえ。ややこしいけど、自分が高校生くらいの時は、ビートルズはリバイバルで流行ってました。といってまだ解散から10年程度しか経っていなかったが、もう古典扱いだったなあ。当時既に神格化されており、ジョンがあの時こう言ったとか、アビーロードの真実はこれだとか、色々とドヤ顔うんちくがメディアに載ってました(キミも友達に差をつけろ!的な←昭和だな)

 自分はELO(Electric Light Orchestra)という英国ロックバンドが好きだったのですが、ここの盟主ジェフ・リンも、当時そんなこと言われてなかったのに、渡米してなんとジョージ・ハリスンをプロデュースして大ヒットさせてからは、度々影響を取り沙汰されるようになった。確かにR&Bっぽいロックとシンセ+クラオケの融合という、ある種闇鍋サウンドは、最後期のビートルズに通じるものがあったかも(あるいは続いていたら…)。
 QUEENなんかも影響下ですね、どっちも英国だし。ただね、その種の言説はビートルマニアの方々が昔はよくしていたが、贔屓のひきたおし的な面もあって、「ビートルズも」聴いて育った、というのが実際は正解なような気がする(w)。

 まあ60年代洋楽ってのが特別なものだったはわかりますが…。それっぽい2枚目の白いやつが、結果についてはアーティストさんが必ずしも満足してるわけじゃなかったと聞いて、そうかと。今聞くと面白いけど、商業的に考えたら当時のリスナーは驚きますわな、それは。業界でも同じ反応だったとのこと。プロデュースは難しいなあ。

 そういやELOはシンセのサウンドセンスも抜群に良かったなあ、きらびやかな音が印象的、他のどこのバンドでも聞けなかったような音。一度音楽界がデジタルシンセショックに見舞われた時(デジタル導入期)、従来のアナログ機の音が全部古臭く感じられた時代があったのですが、そんな中でもELOの音だけは全く色褪せず。バカ売れしていたバンドなのでスタジオワークの時間は少なかったはずなのに、一体どんな魔法を使ったのか。これなんか、ビートルズに同じことをやれといっても無理でしょう(w)。5人目、あるいは6人目を召喚するしかない。
 ELOはどんな機種を使ってたっけか? ARPの名前はどっかで見たがする。あと、ブリティッシュロックバンドらしく、KORGも結構使っていたような(いぶし銀で太い音が英国の好みに合うらしい)。
 わてもシンセ教室に通って早く音を出せるようにならなくちゃ。LFO→VCO→VCF→VCA←ADSR 今度のシンセはなんと2VCOで和音が出るらしいぞ。ようやくカセットデッキでピンポン録音しなくて済む。ヤングにわからない話でごめんね。
(昔は楽器屋主催のシンセ教室がよくあったんだよなあ、もちろん購入を期待しているわけです、結構な値段だったので。今のソフトシンセじゃ値段的に合わないよなあ、全部オンラインの動画コースになるわけだw)

デモ曲追加・気怠い昼下がりPOP

 続けてデモ曲追加です。

「足りない色」

 昼下がりの情事~家政婦は見た!のような世界(笑)というか、なんというか。

 アレンジ中に木管アンサンブルを試したらいい感じだったので、ストリングス+ブラス+木管を入れ込んで色彩感を出してみました。

 左側から聞こえるのは、GM音源にもあった謎の楽器、Dulcimer(ダルシマー)。って今は演奏動画も簡単に見つかるけど、孤高の民族楽器かと思ったら、そうでもなさそうなので、今回安心して採用。

 サビまではCドリアンスケールで、サビからはCメジャーです。転調のような効果狙い、しかし転調ほど劇的に変わる感じはないのが面白い。

 今回はkayumaiさんに再び歌って頂きました。ボーカルはWaves Reel ADTでダブリングして、ちょっとエフェクト効果。

 最近の自分の集大成のようなアレンジ、生楽器からシンセやエレピまで入れた編成の楽曲です。
 皆様からの制作のご依頼を心よりお待ち申し上げております。

「ブルーライト・ヨコハマ」の秘密

 いつか聞こうと思い買ってあった古いレコードが何枚かあり、その中に「園まり」のアルバムがありました。調べたら1969年発売のものらしいが、今でいうカバーアルバム。昔の歌手はカバー曲をよく歌っていて、オリジナルアルバムでも半分くらいカバーとか良くあった、しかもほとんどアレンジが同じとか。
 まあそれはいいとして、この中に「いしだあゆみ」の大ヒット曲「ブルーライト・ヨコハマ」が入っていて、懐かしいなあと思い聞いてました。
(今じゃすっかりブルーライトは悪者だけど、港の照明のことだからね)

 さすがに当時は自分も幼稚園に行くか行かないかの子供(w)。ほんと日本人なら誰でも知ってる、という位の流行りようで、「ものすごくきれいな大人のお姉さん」がおしゃれで都会的な歌を歌っているなあ、と、無論そんな言葉も知りませんでしたが、あとから思い返してみればそんな印象。(その後何年も歌番組で歌われていて、そっちの記憶だろうなあ)

 で、園まりのブルーライト・ヨコハマも良かったのですが、やっぱりアレンジがほぼ同じ感じ、しかもボーカルのエコー処理まで同じ、それで「おっ」と思った。
 原曲を知っている方は思い出してみてください。ボーカルに独特のクリアなエコー(ディレイ=やまびこみたいな残響)が掛かっていませんでしたか? あれでかなり曲の印象がお洒落になってると思いますが、まだ1968年ですので、ハードのデジタルディレイなんて絶対ありません。テープレコーダーの技術を応用したテープディレイならありましたが、やはりこんなクリアな音は出ません。
 では、このディレイの正体は何か? なんだと思いますか?(笑)

 これが今回の本題ですが、ほら、やっぱり分析始めちゃうんですよ。
 で、まあ、答えをいうと、これがエコー・チェンバー(ルーム)だったんですが。

 床や壁をタイル張りにして音がよく反響する小部屋を用意します、その中にスピーカーとマイクを入れれば、はい!エコーチェンバーの出来上がり。あとはボーカルだけスピーカーから流してマイクで拾えば、あのクリアなディレイが得られるというワケ。昔はこんな苦労してたんですね、今からするとアナログで物凄く面白いけど。
(このあと鉄板を使ったプレートリバーブや、スプリングリバーブが開発される)

 海外の古いスタジオにはまだ現存するところもあるらしいが、国内にはもうないでしょう。(お大尽のプライベートスタジオならもしや?)

 実はこれ、なんで気付いたかというと、どこかにミキシング話が載っていたわけでもなく、音でわかったのですね。

 最近、またまたWavesのプラグイン、「Abbey Road Chambers」を買いまして。はい、もうオチが分かった人もいると思いますが、これのデフォルトの音がブルーライトヨコハマのディレイとほぼ同じ(笑)。本当に同じ質感なんで、びっくりですわ。エコーチェンバー再現を目的にしてるとはいえ、よく出来たプラグインだなあ、と。流石世界のARスタジオは期待を裏切らない。
 こんなやつです(↓)。部屋、ありますよね。柱は定常波による一種のハウリングを防ぐためのもの。

 50年からの時空を超えて、こんな形でブルーライトヨコハマの謎が解けるとは。という、ファンタスティックな話でした。まあ諸先輩方には常識だったかもしれませんが。

(この曲、Wikipediaによるといしだあゆみさんの26枚目のシングルだそうで、嘘でしょ?当時二十歳そこそこだし……と思ったら、15歳位でデビューし、「毎月」新曲を出していた時期もあったらしい。恐るべし高度成長期の音楽業界! 80年代アイドルの3カ月新曲で驚いている場合じゃない。ってこっちの方が秘密っぽいか)

(思い出したが冨田勲先生が、「新日本紀行」のテーマ曲で柏木に非常に長いリバーブが欲しくなったとき、エコーチェンバーでも足りず、NHKの施設ビルかなんかの階段室で同じことをやった、という話は有名ですね。あの驚異のロングリバーブは、当時謎だったらしいですわ)

デモ曲追加・スムースラテンPOP

 ところで、このサイトはブログ主体ではありません(笑)。ブロガーじゃないんで、作曲家ですから。ということで、新しいデモ曲追加です。

「ベローズ・チャコール」
 feat. mariko

 今回はスムース・ラテンのようなPOPS曲を書いてみました。シックでスタイリッシュな感じ、そしてまたまたアコーディオンをフィーチャー。前の曲がかなりド派手な入れ方だったので、今回は弦やブラスが入ったなかで、総合的なバンドアンサンブルの中でのアコ、しかもラテンサウンドの中で、というところを主眼に。それで、ラテン曲でよくピアノがやる16ビートのバッキングフレーズがありますが、あれをアコで鳴らしています(当然、右手左手フルアレンジ)。

 アコーディオンの左手のコード(ボタン)は、モロにギターのローコードと音域が重なるのですね。なので下手に鳴らしっぱなしにしていると、最終的にトラックの音が濁ります、響きもよくない。そのあたり気をつけつつアレンジした。(ちなみ、ベースボタンの音域は当然ベースと被る)

 今回は、marikoさんに歌って頂きました。雰囲気あるボーカルで、曲調にぴたりと合いました。有難うございます。

 マスタリングは「Abbey Road TG Mastering Chain」だけで行ってみました。こいつは音圧を上げようとするとすぐ0dbを超えたりするので、今回は音圧低め。後処理でOzoneをかましてみたりしたけど、いかにもOzoneなサウンドになっちゃって、歪っぽかったし、それは止めた。このままだと非常に音に透明感があって、かなり音楽的には正解だと思う。
 このAR-TGMC、プリセットのままではややアレってとこもあるが、少しいじると大変効果的ですね。

デモ曲のミックス改良

 今回はミックスを改良した話。

 生楽器の音が非常によく録れているアルバムを聞いていて(演奏も良かった)、ふと自分のミックスが心配になって、この前書いた曲を聞きなおしてみた。
 するとまあ、こうして比べると低域スカスカのかなり不自然な音に聞こえて、ベースやバスドラがどうこうより、曲全体の空気感が変という感じ。意外とこういうのは気付かないんですね、特にミックス作業の直後は。

 思い当たるところがあって、今回は各トラックの低域をかなりバッサリとEQで削っていて、たぶんそのせいじゃないかと思えた。
 アナライザーで見ても全く信号がない音域なので、いいかと思って。このあたりの音は、目立たないのにエネルギーだけは高いので、うまく処理しないと最終的に音の透明感に影響したり、音圧が上がらなかったります。
 ところが、これが削りすぎるとやはり良くなかったようですね。

 そこでミックスに戻って、削りすぎていたところを戻して、ベースやバスドラも50Hzくらいから下はバッサリいったり、重なっているところはえぐったりしてたので、そのあたりも適宜戻した。あとストラトのエコーが深すぎ他、若干微調整。

 こうして作った新しい2mixに、前と同じ設定のマスターを通して作ったのが、以下のファイルです。
 諸般の事情でmp3ですが320kですし、良いヘッドフォンで聞けば、違いは結構わかると思います。イントロのところが一番分かりやすいと思う。

元ファイル「キミの彼氏はアコーディオン」(若干改良済)

低域EQを修正

 面白いことに、低域をバッサリ削った元のやつのほうが、やはり音圧は上がってるんですね、セオリー通り。ただその分前述のように不自然な感じになるので、やはり(音圧上げだけが目的でないなら)低域の極端なカットは禁物のようです。
(音圧の差は、冒頭のアコーディオンの「鳴り」を聞いて頂ければ、明白ですね)

 参考までに、今回のマスタリング処理で、使用しているプラグインチェインは以下の通りです。

(1)Waves API2500 Compressor
(2)PSP E27 Equalizer
(3)PSP Xenon Limiter

(1)で2mixをまとめつつ若干レベル上げ。
(2)でコンプ処理で失われがちな高域を持ち上げる。
(3)でいよいよ音圧上げ処理。

 API2500は結構はっきりとキャラのつくタイプのコンプで、アメリカンな明るい音になります(悪くいえばチャラい音?)。
 E27も実機のモデリングだそうですが、実機にはトランスが入っているそうで、独特のヌラヌラした音になります。非常に面白い。
 Xenonはオリジナル設計だけど、これまたアナログっぽいイイ感じの歪み成分が付与される感じ、これまた個性的なリミッターです。
 こいつらを通すと、もうDAWで完結しているとは思えないような、アナログ感満載の音になります、お聞き頂いたとおり。こういうところがマスタリングの面白さだったりします。

 で、今回はシンセベース(を、ベースアンプに通してある)とブレイク系の打ち込みドラムのリズムセクションだったので、こういう感じの少し暖かい歪み成分があるマスタリングにしてみましたが(インディーズ風?)、この前買ったWavesのAbbey Road TG Mastering Chainも、せっかくなので試してみました。

 名前の通り、ロンドンのアビーロードスタジオが監修して作られたプラグインです。同シリーズは非常に高品質のプロダクト揃い。
 マスタリングをこいつだけでやってみたのが、以下のファイル。いかがでしょうか? 設定としては前述のやつと似た感じにしたのですが、これは同じ音圧が出ているのにかなり透明感がある仕上がり、しかもアナログっぽいし、ちょっと市販のCDにも近づいた音です。(高域だけは上げすぎてたので若干絞った)

TG Mastering Chainで処理

 かなり優秀だと思いますわ、なかなか使えるやつだと思います。

 ミックスは油断してるとこういうことがあるから、常に気をつけていないといかんですね。

(おっ、でも今聞いたら、コンプを1段抜かした分、2mixのまとまりがなくなってる気がする。こういうの、無限にあるんですよミックス作業はw)

謎は全て解けた? アビーロードスタジオ

 実は、前回のアビロ(なんちゅう略語や)のミキシングの謎、書いて次の日に原因がわかりました。使用前・使用後にあまり差がないというアレですね。

 わかってみれば簡単で、要は「使用前」音源もアビロで録ったから、ということです(w)。そりゃそうか、と思うわけですよ。設備の整ったスタジオで激高いマイク・マイクプリ・ケーブル、コンソール、他プロセッサーで録っているんですわ。エンジニアのマイキングも普段通りでしょこれ。しかもちゃんとマルチトラックで録っている(でないとそのあとミキシングできないし)。
 というか、最低限のプリミックスやトリートはしているはずです。でないと音源にならないので。そこからしてレベルが高い(オソロシイ話です)。

 ハイレベルの「使用前」音源にハイレベルの正規ミックスしても、その差はあまり感じられないのは当然といえば当然。いやはや、恵まれているところはそれなりの悩み(?)があるもんですわ。
 たぶんユーザーの音源をどれか借りて載せれば良かったんだろうけど、権利関係で煩わしいことを避けるためでしょうね(演奏してるミュージシャンも無論プロと思われます)。もっと下手ミックスの使用前音源を用意すればいいんだけど、ここの大看板しょってるとそういう訳にもいかないのかもしれない。
(熟達したセッションピアニストは、もう身体に運指やコード進行が染み付いているから、めちゃくちゃ弾こうしてもできないそうですね。それと同じことがここのエンジニアにも起こっているに違いないw)

 今は日本も昔の有名スタジオなんかとっくに潰れてしまっているそうですが、現在残っているところは、それこそアビーロードスタジオとも戦えるクオリティのスタジオでしょう。この世界もグローバリズムといえそうですが、苛烈な時代です。
 経営が成り立っているところは、よほどオーナーやエンジニアが優秀でビジネスのセンスもある場所ばかりと思われます。

 話は少しずれるけど、スタジオも優秀、ミュージシャンも優秀、制作環境は整っている(ハードさえあきらめれば低廉)、良い音楽聞きたいリスナーもたくさんいる、なのに音楽ビジネスが全くダメなのはどういうわけか。これは世界中でそうですが。
 日本だけとっても、非常に才能あるミュージシャンは一杯いるのに、その曲が本当に音楽を聴きたい人のところまで届いていない(あ、自分のこと言ってるんじゃないよ。凄い方が多すぎです、あっしは修行中のおっさん)。どこかで目詰まりを起こしているんですね、きっと。

 これについては、いつか改めてまた。(といっても音楽業界を語れるほど内情知っているわけじゃないがw)

アビーロードスタジオの秘密?

(二つ前の記事からの続き)

良かったぁ、「AR Modern Drummer」の深刻なバグなんて無かったんや!

 今回は曲書いてる人間以外チンプンカンプンだと思うけど、敢えて……説明しよう。
 あ、ARというのは、Abbey Roadの略で、もちろんこれは世界で一番有名な音楽スタジオの名前です。ビートルズやピンクフロイドなどがここで数々の名盤を作ってきました。
 ロンドンにあるこのスタジオが録音・監修して作られているサンプリングの「ドラム音源」のひとつ、それが冒頭に書いた製品。すごい時代でしょ?

 ざっくり言って、この音源はミキサーやエフェクト(EQやらサチュレータやらリバーブやらディレイやらコンプやら)、それもかなり高品質なやつを内蔵していて、更に超高品質な録りの各サンプルと相まって、まあ何種類かあるプリセットのまんまで、非常にいい感じの音で鳴ってくれるわけですよ。やっぱ世界の一流スタジオだから、そこは。
 スタジオのミキシングコンソールが画面の中にあると思ってくれ。

 で、今回はその中からSparkle KitのR’nBというプリセットを使ったんですわ(ドラムキットも2種類ある)。
 そしたらね、アレンジが完成して、ミックスの準備でパラアウトした途端、大半の音が消えてしまって、非常に焦った。(もう専門用語の解説はしない)(笑)
 ルームとオーバーヘッドあたりは大丈夫だった。

 どうしてパラアウトすると音が消えるのか? これはバグだ!と思っていたわけよ。
(パラアウト=キックドラム、スネア、ハイハット…といった具合に、個別出力してファイルに落とす行為。あ、解説しちゃった)

 ところが、色々と試していると、どうも非常に小さな音でキックやスネア他が鳴っているのがわかった。消えたわけではないがやはりバグなのか? と思い、音源のミキサーセクションをあちこちチェックしていると、マスターでコンプを通しているのがわかった。犯人これでしたわ(笑)。ここでがっつりコンプ掛けて音を大きくしていた!

 パラアウトとするとマスターバス通らなくなるから、音が小さくなってた。
 だからDAWのミキサーでドラムバス作って、似た設定でバスコンプ掛けたら、アーラ不思議、ってわけでもないが元通り。

 それはいいが、問題はなんでこんなことをアビーロードのエンジニアがしていたか、ってこと。

 他のプリセットだと、パラアウトした段階で全部はっきり大きな音で出力されるんですね。(もちろん、どのプリセットもキックならキックごとにEQやらコンプやらできっちり音が作ってある)。ところがこのR’nBだけはこの段階では非常に音が小さい。

 つまりこれは、アビーロードスタジオの現在のドラムミックスのやり方なんだろう、と気付いて鼻血が出るほど興奮したぜ!(笑)

 パラの段階ではかなり小さめの音にしておいて、バスコンプでガーンと持ち上げると、確かにドラム各パートの間でいい感じの一体感が出て、R&Bで使われるあの感じのドラムサウンドになる。

 お家でドラム音源使っているだけでアビーロードのミックスの秘密が覗けてしまう。なんという良い時代だ。
 いきなり渡英して実際のアビーロードスタジオ行っても、ミキシングなんかまず見せてくれないだろうしね。(もっとも、今はここも多角経営で、ハイテクベンチャーと組んでエンジニア養成スクールをやってるらしい。伝承していかないと、この時代だから技術が消えちゃうんだって)
 あと、グーグルアースだかで確か内部をぐるっと回れたはず。こうなると一種の観光名所か?

 さて。今回の本題はこれからです(今までのは前置き)。
 そういえばアビーロードスタジオ(英語表記だとStudiosと複数形なんですね)のサイトまだ見てなかったなあ、と思って、実は今回見てみました。
 ビートルズのアルバムジャケットで写っていたあの横断歩道が見えるライブカメラとか、非常にくだらないコンテンツもありつつも、驚いたのが。
 ネット経由でミキシングやマスタリングを受け付けているんですわ!

 えええええ!?と思った人はよく訓練された情弱クリエイターだ! ちなみに自分もだ。いやー驚いた。昔ならアビーロードスタジオでミキシングなんて、メジャーでよっぽど売れていないと絶対無理ですからね。ほんとひと握りのアーティストの特権。それが今やお金さえ払えば誰でも受け付けて貰えるとは。文明はどんどん進歩しているな。

 気になるお値段は、現在のGBPレートだと日本円でミックス1曲が45000円位。マスタリングが1.5万弱だったかな?結構お手頃じゃないだろうか。
 ただ心配なのが、さすがにネット経由だから本物のエンジニアがやってくれるか確認できないこと。もしかしたら学生バイト君がテキトーにやっつけてるんではという疑惑が。一応、エンジニアの顔写真とプロフィールが出てきて、誰に頼むか指定できる体裁にはなってるんですが。

 で、ググってみたら、なんと数年前にここでマスタリングをした方のブログ記事が見つかった(そんな前からやっていたらしい)。スタジオ関係者の方らしいのでかなり信頼度は高そうですが、やはりバイト疑惑を持ちつつもエイヤ!っと依頼したら、ちゃんと曲ごとにマスタリングの方法論を変えてきてて、どうやら本職エンジニアが仕事してくれているらしいとのこと。
 いやー、これはいいんじゃないか?…と普通思うじゃないですか。
 あっしも一瞬思ったよ。
 ところがですね。

 ミキシング依頼ページの「ミキシング前」「ミキシング後」の音源があったので、試聴してみたんですよ。確かに、音は整理されてそりゃ良くなってる。EQやコンプでトリートして上質の音源に仕上がってますよ。
 しかし……それほど驚くような「変化」でもないかも、と。正直、これ位なら今の日本のスタジオでもクオリティは変わらないし、なんならもっと良くできるところは結構あるんじゃないか?と思ってしまった。
(まさか、そんな訳あるか!という人は実際のサイトへ行って試聴してみて下さい)

 ここで思い出したのが、90年代にインターネットが一般化した時に海外のネットニュースなんかで聞きかじった話。意外と海外には日本製CDのファンが多くて、それは品質がとても良いから。アメリカだけでなくヨーロッパからも、日本のアーティストはCDの音が良いから羨ましい、などど聞こえてきた。
 今にしても思えば、これはCD盤そのもののプロダクト品質だけでなく、録音やミキシング含めた(マスタリングも)クオリティが高かったからかもしれません。
 こういう話は音楽メディアでも見かけたしなあ。

 僕らが意識してないだけで、30年も前から録音・ミックスなどのスタジオワークは、日本も世界レベルになっていたんじゃないかと。もう今となっては機材も方法論も海外と国内で差はないだろうし。
 アビーロードのブランド信仰みたいなのが崩れてちょっとガッカリ(?)な話ではありますが。

 いや、でも、ネット経由のストリーミング再生だから、実際は帯域がかなり絞ってあるはずで、実はWAVで聞いたら凄かったりとか……やっぱりバイト君がやってたりとか?(笑)。ミックスは音源のブラッシュアップだけでなく、どういう方向でやるか、ってのもエンジニアが考えることだから、そこはアビーロードは優れていたりするんだろうか。
 情弱を騙す名前としては、ブランド力は最高ですが(怒られるわ)。
 だって人に「この曲、アビーロードでミックスしたんです」と言ったらどうなるか、考えてみたらわかるよね。主に団塊の世代の人は間違いなく飛び上がる(笑)。

 あ、なんだかんだ言ってもやっぱり音源やプラグインは最高にイイっすよ。(元々オリジナルハードの開発は、ここの伝統でもある。コンソールや有名なダブリングマシン等)。
 アビーロードスタジオ、意外とユーザフレンドリーなんだね、って話でした。