月: 2022年8月

音圧つれづれ

 サブスクで色々な時代の曲を聴いていて思ったんだが、やっぱり時代が下るに従って明らかに曲の音圧が高くなっていくんですね。現代的なミキシングが完成したのが1970年代後半だとすれば、それを受け継いだ80年代はまだしも、90年代からだんだん音圧が上がっていき、2000年代前半には、世界で音圧戦争とでもいうべき状態になってしまっていた。
 音圧こそ正義、もうありとあらゆる手段で音圧を稼ごうという風潮でした。この時代の幾つかの楽曲を今聞くと、もう奇音とでも言うべき凄まじいク●音質で、おいおいMXRのペダルディストーションでもマスターに掛けたのかこれは、みたいな歪みだらけの、聞くに堪えないものが散見します。いっそもう、おぞましい音、と断言しても良いくらい。
(別にMXRのペダルをけなしているわけじゃないよ、適切にギターに掛ければ素晴らしい効果。でもマスターに挿しちゃダメだろうw)
 確かに見かけ上の音は大きいかもしれないが、音質が犠牲になって楽曲が死んでしまってる。音圧のために音楽が壊されたんですね。風船を限界を超えて膨らせている感じか。実際やり過ぎてクリップノイズまで出した曲もあるらしいし。

 で、流石にこれはまずかろう、ということで、2010年代頃からは、そこまで音圧は重視されない風潮になってきてはいる、一応は。まあプラグイン等の発展で、歪ませずに音圧を上げることもできるようになってきてる、ってのはある。
 ただ注意深く良いオーディオ機器で聞くと、やっぱり現代の音圧が高い曲は、かなり無理をしているのがわかる、音が不自然なんですね。(歪みも聞こえます…)

 やはり音質的なことを考えれば、70-80年代のミキシングや音圧が最高なんですけどね。おかしな音圧歪みも全くないし、ステレオコンポで大音量で鳴らしても、非常にバランスが良く気持ちいいわけです。逆に現代の高音圧曲は、とても居心地の悪い、奇ミックスに聞こえます。(なんせスマホのイヤフォンに合わせあるからな、トホホ…)

 これらの話は、無論ジャンルによっても違ってきますが(クラシックやジャズなどは、音圧など完全無視でしょう)、なんと「高音圧化」の話は、演歌にさえ当てはまります。

 そこで弊レーベルの戦略は…って話は、まあ一応置いておきますが。とりあえず、いま音圧を気にしないといけない曲をマスタリングしているので、例によってぼやっと書いてみました。

(余談。あれだね、最近の洋楽のチャート上位曲が、ほぼボーカルと簡単なリズムとコード鳴らしているだけ、みたいなパターンが散見するが、ラップの影響と言えなくもないが、実はスマホのイヤフォンでは情報量の多い曲を鳴らしづらいからじゃないか? ハードウェア的にドライブできないってこと。テクノロジーが音楽を単純にした、って言えるかもしれない?)

ProTools利用開始

 ちょうどミキシングを始める曲があったので、早速ProToolsで作業してる。
 従来もミキシングは必ずバウンスして別工程にしていたので、このタイミングでトラックごとのWAVファイルを、ABILITYからざざっとProToolsの方へ持っていけばいいわけです。

 やっぱりミキシングは万国共通の作業だからか、マニュアルを読まなくても結構使いこなせることに気付いた。判らないところはググると解説ページや公式のヘルプが出てくるし、流石にユーザが多いDAWはこういう時に便利。
 打ち込みから全部やれと言われると困るだろうが、この方式なら時間的な導入コストは少なそうです。
 多少の設計思想の違いはあれど、物理ミキサーを再現するというのがDAWの目的の一つだから……。まあトラック毎のPANのツマミが左右一個づつなのには面食らったが(合理的な理由があるんですね)。

 しかしなんか、この前も書いたが、ソフトのルック&フィールが、それこそ20年位前のやる気のない日本語化施された海外ソフト、そのままだね(w)。これならABILITYや、最近の他社DAWの方が、デザイン等は洗練されていると思う(多分機能やルーティングも)。
 音は流石に良いですね。音質が高品位だからスタジオが皆使っているんだもんね。Babyfaceを導入した時も感じた、全体の見晴らしが良くなった感じ、それを再び味わってます。音が見えやすいので、EQやコンプのツマミを弄っても、すぐにパラメータが決まるので時短になる。
 まあ、プロ用の無骨な職人DAWといったところですか。

 常用のプラグインの大半がAAXにも対応しているので、ProToolsに移って困ることもない。(Waves/PSPも)
 ただSonnoxのリバーブやEQは、ABILITY専用なので使えなくなってしまったが、そこは結構イタい。
 ということで意外とすんなり利用開始できました。

「粉雪の海」アマゾン新着3位

8/16にリリースした「粉雪の海」が、アマゾンデジタルミュージックの新着で3位を獲りました。

なんとポップスのジャンルです、演歌でなく。(配信サイト側で勝手にジャンルを変えられることがよくある)

(担当Kよりコメント)
 真夏の演歌、良いものです。MAYUMIの歌に浸ればひととき現を忘れられます。

Amazon | Apple | Youtube | LINE | Spotify | 他主要サイトで配信中

EDMって何だったのか

 Electroric Dance Music――EDMといっても狭義のEDMの方。もう10年程前ですか、いきなりえらくプリミティブ(原始的/未加工)なシンセをフィーチャーしたダンスビートが世界を席巻したわけですが(といっても日本を除く)。結局、1-2年で消えましたね。当初から日本では流行らないだろうと言われてたが、その通りだった、ほぼかすりもせずといったところですか。
 詳しくチェックしていた訳ではないのでアレですが、今にして思えば、高度に専門化した制作手法も世界共通になって、「工業製品」のように平準化・単一化した現代の音楽へのアンチテーゼ、ちょっとした流行病のようなものだったのかもしれません。なんせ道具さえ世界共通なんだから、金太郎飴のように同じものばかりになってしまった、特にダンスミュージックの分野。ただラップやR&Bなんかもほぼ同じでしょう。
 それで誰かがEDMをやり出すと、また売れるということでシーンがそればっかになっちゃって、結局自縄自縛……という形、なんではないでしょうか。ちょっと意地悪過ぎるか。
 展開も音色もえらく単純だったような……それでいてそれが狭義EDMの特徴だった。音楽的には、例えばシティポップなんかとは対極にあるものといえそうです。
(別に、敵視しているわけではありませんが)

 こういう、画一化したプロダクト・ミュージックへのアンチテーゼは、ディアンジェロもそうですね。現代のブラックミュージックでありがちな作り込みを徹底的に拒否して、一発録りに近い形で楽曲を完成させる。こっちの方が、だから正統派かもしれません、それこそモータウンサウンドに近いので。(なんせEDMがアンチテーゼだったとしたら、その作り方もまた手法化されちゃったんだから、皮肉というかなんというか)

 日本人の一人としては、これが日本で流行らなかった理由の方に興味が出ますね。やはり日本人は作りこまれた音楽の方が好きだからか……? わざとセンスレスに振舞うことが、日本ではダサいと思われがち、だからかもしれません。そういう捉え方をすると、ヘタウマならぬ「ダサカッコイイ」が受け入れられるかどうか、ってところに落ち着きそう。
 まあ、今回は自分でもかなり浅い論考だと思うが、暴言妄言何卒ご勘弁を(w)。

 この狭義EDMを取り入れるとしたらどうなるのか、ってところを考えたら面白いけど、流行が終ってから流行物を取り入れるのはまたアレだし。例のフィルター開閉やら特徴的なフレーズを持ってくる、程度に留めた方が安全かもしれません。まあ実際そうなってますね。
 この狭義EDMが懐かしい…って言われて後に振り返られることがあるのかどうか。ちょっと興味があります。

ディスコの名曲

 ふと聞きたくなって、アース・ウィンド&ファイアーの「ブギー・ワンダーランド」をサブスクで流していたんだけど(CD持ってるのに場所がわからんw)、改めて気付いたことがひとつ。この曲はアレンジ的には、女性コーラスが非常に重要な役割を担っているんですね。クールなのにホット、アンサンブルもキレキレの3声コーラスが、時にモーリス・ホワイトのリードボーカルよりも重要な役割を果たしています。

 これはジ・エモーションズという女性3人組のグループで、曲の名義的にも、正式にはアースに加えてエモーションズがクレジットされている。モーリスホワイトが彼女たちをプロデュースしてヒット、その恩返しの形でアースのレコーディングに参加したらしい。そしたらこれまた全世界レベルの超絶ヒットになっちゃって……話。
 ディスコ曲は色々と分析されているが、女性コーラスに注目したものはあまりなかった印象。非常に重要なヒントを貰ったので早速制作で活かしてます。

 Youtubeにレコード会社の上げた正式なクリップが上がってますが、もうめっちゃくちゃカッコイイぞ。エモーションズが歌うところも見られます。これが40年以上前の曲って、本当に信じられない話。
 自分の世代だと、ちょうどティーンエイジャーの時で、FMラジオを聞いているとアースの新曲です、ってこれがいきなり流れてくるわけですよ。この信じられないグルーブ感、魂消たよ。いや昭和か、ってまあ昭和54年(1979年)だけどね。本当に音楽の黄金時代だった、他にも今も残っている名曲が次々に「新曲」としてチャートに出てくるんだから。(ちなみ、演奏も凄いがミックスも最高)

 おっと「Let’s Groove」のことも書くつもりだったが、長くなったのでまた今度。

アレンジについて一考察

 最近つくづく思うが、作詞・作曲よりも、編曲(アレンジ)の方が実は難しい、という事実……。全工程やっているからわかるが、作詞・作曲は技術的なところよりも、感覚的な部分に拠る面が大きく、わりとすんなり終るのがほとんど。(コード進行決めは理論が入ってるが、逆にそこから大きく逸脱することはない、少なくともポピュラー音楽は。便宜上今はコードも作曲工程に含める)。

 編曲になると、歌詞やメロや曲調を、どう最大限活かすスコア(トラック)を作るか、というのを考えないといけない訳です。曲のコンセンプトなんかも頭の隅に置いておく必要がある。物悲しいバラードなのに、血湧き肉躍るリズムアレンジじゃチグハグもいいところだしね。といってあまりに類型的なものじゃ陳腐になるが……。
 編曲も、やはり大きな部分は音楽理論だったり、典型的な編成やパターンというものはあります。それは多くを既存の楽曲から学ばないといけないものですが、あまりに突飛なものは自ずと曲に合わないので、まあこういう感じだよね、ってところは各ジャンルごとに存在する。

 ところが……そういったロジックだったりフォーミュラをなぞるだけじゃなく、やっぱりどこかで「行けー!」みたいなパッション、それは理屈を超越したものですが、それに身を任せた方が結果として良いものが出来たりするから、また不思議なものです。
 純粋な編曲技術的なところと、湧き上がる音楽的パッションがバランスより入り混じると、凡庸じゃない曲(編曲)が仕上がるじゃないでしょうか。
 (この件に限らずとも)バランスはとても大事だと思ったりするわけです。編曲次第で曲が良くなったり悪くなったりするので。

 今言ったのは、自分で作詞作曲した曲の場合なので、他の作家さんやシンガーソングライターさんが書いた曲だと、今度は更にこの人の書いた曲の意図は、とか、この人の音楽性はこうだから……ってところも考えないといけなくなる。またハードルが上がるわけです。発注者側(プロデューサー)の要望も、もちろんある。

 自分で書いた曲だと、ぶっちゃけ作詞作曲している時に、ある程度アレンジプランなんかも考えている、というか一緒に浮かんでいる。基本それを具現化していけばいいわけだから、それは何工程かすっ飛ばせるわけです。

 ここから、手持ちの音源でどうアレンジを具体化してトラックを作るか、という打ち込み戦略的なところも、無論必要になってきます。ギター一本で作っているわけではないので。
 こうなると、もう一人何役なんだよって話だけど、このあとにはミックス工程も控えているわけで……まあ長くなるので今回はこの辺で(w)。
 とにかく編曲は難しいぞ、って話です。(少なくともかなり巷の音楽をたくさん聞いて見知っていないと、要望に応えられないはず)

ProTools導入

 「ProTools 12 Artist」を導入しました。トラック数がオーディオ・MIDI・AUX/FXで各32本だが、弊社の制作だとこれで大丈夫(結構ギリだが)。もし足りなくなったら、とりあえずステムを導入してストリングスやブラスをまとめる。
 いずれにせよまずはABILITYと併用する体制で、打ち込みはそちらで、ミキシングからProToolsにしようかと考えている。

 実は、数年前に試用版のProTools First(廃版)をダウンロードしてあったんですね。当時使ってみたが必要性を感じず、先日残っていたファイルを試しにインストールしてみたら、Win10でもいけました。で、マスタリングだけABILITYと同じ条件でやってみて音を聞いたら、やっぱりこれが全然違う。明白にわかるくらい高音質。(ABIもイイ線いってはいるんだが、さすがに世界のスタジオ業界標準と比べたら…)
 昔もちょっと比較したことがあったが、とにかくプロツーは「みっちり」した感じ、情報量のグッとつまった、非常にクリアで高品位な音。
 無理やり饅頭に例えると、薄皮にアンコがぎっちり詰まっているイメージ。これに比べたら他のDAWは、まあアンコが少なくて皮がぶわぶわしてる。
 これだけ違うんじゃもう製品版を入れるしかない。今はプロツーもサブスク形式なんですね。

 しかし、インストーラが結構ポンコツで、終るまで3時間くらい掛かってしまった。なんか昔の海外ソフトにありがちな感じのやつだった。リセットのタイミングも慣れてない人はわからんと思う。

 メーカーのAVIDは、アメリカ・マサチューセッツの会社だったんですね(iZtopeと同じく)。音楽関係のソフトや音源はご存知のとおり欧州勢が滅法強くて、個人的には米国ふがいないと思っていたが、一番大事なスタジオユースの根幹部分を押さえていたわけだ(OSと似ているな)。言われてみれば、ブライトでクリアな音質、アメリカンといえなくもない、面白いところです。
 ともあれこれで弊社もささやかながら、モニター環境も含めて業界標準の体制が出来ました。

Dew Ridge Records一周年

 いつの間にやら、弊社「Dew Ridge Records」のサイト開設一周年。なんとか格好がつく陣容になってきた。形になるまで2~3年は掛かると予想していたので。

 まだプロジェクト初期段階だから、口はばったいが、才能あるシンガーさんたちに出会えたのは非常に大きい。やはり、人を決めて曲を当て書きすると、とても作りやすい。この人ならこう歌うだろうな、ということがわかるしね。信頼関係も出来てくるので、毎回仕上がりを心配しなくて済む。とはいえ、売り方を含めてまだまだ五里霧中、状況はどんどん動いていくわけですが……。
 ネット時代のレーベルはどうあるべきか、っていう頭もあり、それに即した動きも始めましたしね。

 まだまだ頭の中にある計画・アイディア、山積みです。一歩一歩、進めていこうと思います。
 現在の課題は、やはり宣伝体制だな、と思います。みんながやっていることをしても埋もれてしまうだけだが、それすらしないと全く知って貰えない。といってネット広告も正に無駄でしょう。(楽曲の広告って見たことないですね)
 リスナーに曲を知ってもらうにはどうしたらいいか。永遠の課題ですね。(メジャーだったら、専門の宣伝チームがいるんだから…)

(昔、Google広告がワンクリック1円だった時代があったが、今は10円でも相当厳しい)

 このところ色んなレーベルの興亡史を読んで、レーベルは生き物だということがわかってきた。どんなに勢いのあったレーベルでも、中心的な作家陣・制作陣がいなくなったり、熱意を失う、ビジネスに失敗すれば、失速して最終的には消えていく。音源はまとめて売られてしまうか、管理専門の会社に移る。もちろんこれはメジャーの話ですが。ちょうどバンドの盛衰と同じです。

 いま、弊社はまだ立ち上げが終わった直後くらいの段階ですが、今後の展開は正直全く見通せない。日々、良い音楽を作り、それを世に出す努力をする、その繰り返しで過ぎていきます。