カテゴリー: 音楽一般

トミタ・サウンドクラウドを振り返る

 引き寄せの法則ってあるのでしょうか。先日なんだか急に「トミタサウンドクラウド 長良川」って検索しなきゃいけない気分になったんです。それでやってみたら、古本屋の在庫がヒットした。

「トミタ・サウンドクラウド・イン長良川 公式記録」

 ご存知ない方のために、これは1988年に岐阜の長良川河川敷で開催された、冨田勲先生をフィーチャーした一大ライブイベントのことです。どうもライブパンフの類ではないらしい、箱入りって書いてある。これは買ってみなければ、と早速購入して届いた本が。

 おお、豪華。
 内容を見ていくと、どうやら岐阜のライブ主催組織がライブ終了後に作った、まさに公式ドキュメント本らしく、値段も記されてないし関係者だけに配られたものではないかと思われる。

 ライブパンフではないので、準備段階から会場の設置、ライブ当日の様子、ライブ後の撤収まで収められています。
 まあこの写真の先生を見て下さいよ。(写真あんまり良くなくてごめん)

 どうですかこれ。子供たちも、東京から偉い作曲家の先生が来るって聞いてたのに、格好いいバイクに乗った人が来ちゃってびっくりだよね。(むろん東京から高速利用でしょう)

 面白いのは色々な費用リストや、なんとライブイベントの企画書まで載っている。
 業界的にもかなり面白い情報がわかる本でした。

 企業等からの協賛費用が5億円強、ライブチケットの売上が4000万円強。今の貨幣価値だと、それぞれ10億と8000万ですね。Geminiに尋ねたら、普通は協賛費はチケット売上の半分も行けば良いほうらしく、異常な数字といえます。やっぱりバブル最盛期だったのと、一般ニュースになるくらいの超巨大イベントだったからでしょう。
 当日は広大な無料観覧スペースも用意され、30万人を超える動員だったそうで、とんでもない規模の野外コンサートだったと思います。

 ちなみ、ライブは当時の浩宮皇太子殿下(現・天皇陛下)もご覧になりました。ファンだったそうで、駆けつけたという話を往時の報道で知りました。

 スティービー・ワンダーもUFOに乗って(w)参加してたし、まあこんな規模のイベントは今はなかなか難しいかもしれません。
(このような資料を遺してくれた関係者の皆様に感謝)

音圧・音質戦争はここまできた?

 配信楽曲の音質について、最近気付いた驚愕の事実。どこから説明したらいいかわからんが、順を追って。

 音楽制作用とは別に、軽くCDを聞いたりYourubeを見たりするとき使ってるJVCのヘッドフォンがあるんですね。エンドユーザー向け、価格3000円位で、密閉型オーバーイヤーで気に入って壊れても買い続けている。疲れない音質で、なかなかの製品。
 実はこいつを、楽曲マスターを最終確認したあと、エンドユーザ環境のリファレンス(?)のひとつとしても使っています。リスナーにどう聞こえるか、それも重要なので。

 ただ、これでバランス良く聞こえても、いざサブスクに投げると、あらら……ってこともあるので、もう一つユーザー環境のリファを増やそうと、この度ソニーのMDR-ZX310という、やはり同価格帯のリスニング用ヘッドフォンを買った。

 ところがいざ届いて試聴すると、これがもう驚愕の音質で。高音域がざっくり削られてて、分厚い膜が掛かったようになっている。最初はわれとわが耳を疑ったよ。あるいは初期不良じゃないかって。エイジング不足?いや、そんな生易しいもんじゃない。シンセに例えるとカットオフのツマミは半分くらい。
 どんな音楽ソースを試しても同じ……ではなかったです、こんな製品で自然に聞こえる曲があった。

 業界に配慮してあえて曲名は伏せるが(w)、まあ最近の音圧爆上げ曲ですよ、どれも同じです。これらのイマドキ曲は、実は音圧だけでなく、高音域も異常なくらい強調してあるんですね。僕らは聞くのがつらいです。マンガチックに言えば剣山を両耳に当ててグリグリされているようなもんだから。
 この曲が、なんとソニーのZX310で聞くと、自然に聞きやすく聞こえるのです。高音域がバッサリ削ってあるから(!)。

 どうですかこれ? あまりに最近の配信曲の音質が異常なので、とうとうメーカーがそれに合わせた製品を出すようになったということです。
 実は該当製品のレビューには、自分と同じように高音域が全く出ていない、故障だ捨てたという文句が(数は少ないが)あります。たぶんこれは従来の音楽ファンだろう、昔からの正常な音質を知っていれば、当然そういう感想になるはず。

 いやあもう、あきれて物が言えない。これ、スマホで聞くと一応聞きやすかったりするんでしょう、そりゃ歌詞は聴きやすいだろうが……。なんだかどんどん状況が「良質な音楽を届ける」って方向から遠ざかってるんですが……。
(この曲、念のためmp3を買ってチェックしたが、LUFSは「-6db」だったよ。業界の皆さん仰天するでしょ? サブスクの推奨値がせいぜい-14だから……)

 もうこれは最終的にどこに行き着くか、当方にもわかりません。なにか技術的なブレイクスルーが起こって、ガラガラポンできる日が来るんだろうか。
(だから、若い人でも耳をやられた人が、アナログレコードの音の“良さ”に惹かれたりって現象が起きてるんでしょうね。 →今の曲は長期間聞き続けると「聴覚」に異常を来すレベルと思われます)

DEW RIDGE RECORDS改編のお知らせ

「DEW RIDGE RECORDS」は、これまでインディーズレーベルとして存在して参りましたが、今後はフリー音楽プロバイダーとしての機能も併せ持ちます。

 フリー音楽とは、ロイヤリティフリーでどなたでも動画等で使用できる楽曲のことで、インスト(BGM)や歌物を含みます。従来も一部の楽曲はフリー音楽として配布してきましたが、いよいよ本格的に対応を開始します。順次作業をすすめ、リリース中の全楽曲が基本的にフリー音楽となります。

 その第一弾として、最初にDEW RIDGE RECORDSからリリースした以下の楽曲を、先日からピアプロとニコニ・コモンズにて公開しています。

A’ROUND / ACTiVATE (feat. パキラ, minaraigt) – ピアプロ

[ピアプロDL可] A’ROUND / ACTiVATE (feat. パキラ, minaraigt) – ニコニコモンズ

・ピアプロは無料利用でき、楽曲ダウンロードも無料です。
・ニコニ・コモンズも無料ですが、ダウンロードは有料会員のみです。

 DEW RIDGE RECORDSは全楽曲がJASRAC信託なので、配布はJASRACと包括契約のある上記2サイトからのみとしています。
 利用条件等は、各サイトやページにてご確認下さい。(著作権は放棄していませんのでご注意下さい)

 この改編に伴い、DEW RIDGE RECORDSのサイトやYoutubeチャンネルもアップデートしていきます。
 今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

5/10 配信開始「南風 (Nang Poo) / Brick Geist (feat. まち)」

きっとあなたに、届いて欲しい。サンシャイン・エレクトロニック・ディスコ!
~YM-0三部作-2

「南風 (Nang Poo) / Brick Geist (feat. まち)」

作編曲・プロデュース:弦央昭良
Release Date:2024/05/10


#チルアウト #エレクトロニカ #EDM

ピンクレディーの時代の業界話

 先日ラジオを点けたら「昇話歌謡〜うたの宝探し〜」という番組が流れてきて、作曲家の都倉俊一先生が出演されていましたが、どうやら特集番組だったようです。なんと、現・文化庁長官ですからね。3部の途中からしか聞けませんでしたが、記憶頼りにエピソードをご紹介。(3部はピンクレディーがテーマだった様子)

・昔は基本的に生伴奏だったので、色々な楽器が試せて編曲作業は面白かった。

・その中でもTVとレコーディングでは楽器編成が違うので、作曲家は編曲の違う譜面を2つ用意しなければならなかった。スタジオはストリングスが入るが、TV等はギャラの関係で雇えないことが多いので、ジャズのビッグバンド中心だった。

・自分(都倉さん)はブラスが好きだったので、ピンクレディーはブラス・ロック路線(のアレンジ)でやっていた。

・その中で、演奏難易度の高い編曲をやり過ぎたと思ったのが「カルメン’77」。案の定、ブラスの人から、「先生、難しすぎて吹けません。吹きにくいです」と言われた。とりあえず「駄目じゃないか」と返したら、プロだからその場で練習してやりきった。あとでお礼を言われたとか。これはイントロのところだそうです。

・阿久悠さんは野球が大好きで、高校野球の地方大会を4時間もTVにかじりついて見ている人だった。それも、ひとつのミスで試合がひっくり返ったとか、そういうエピソードを探してみていたそう。

・阿久さんを、(仲の良かった)王貞治さんに紹介したら、ものすごく緊張していた。王さんが(自分がモデルの)「サウスポー」の、相手の投手は誰なんですか、と聞いたら、阿久さんは焦りまくって「いえ実在しません」と答えていた。

・ピンクレディーは殺人的スケジュールで、彼女たちの貴重な青春をこんな形で浪費させていいんだろうかと、よく阿久さんと話していたらしい。あるとき夜の11:30にスタジオに呼ばれた。11時にピンクの二人が到着して食事を取らせ、そのまま夜中3時までレコーディング。二人は翌朝6時からまた仕事。

 パーソナリティの春風亭昇太さんがかなりビビってたのが印象的でした(w)。ただでさえ大作曲家なのにいまや省庁のトップですからね。JASRAC会長職も務められていたことがおありです。

(追記
・阿久さんとは相性が良かった。例えば「ペッパー警部」はなぜペッパーで警部なのか、それはもう阿久さんは「そうでなくてはならない」からだという。自分(都倉さん)もそれに同意していた。ただ作曲家のなかには、全部理詰めで納得したいという人もいる。だから作詞と作曲も相性がある)

5/10配信予定「南風 (Nang Poo) / Brick Geist (feat. まち)」

◆5/10 配信予定の新曲です。
「南風 (Nang Poo) / Brick Geist (feat. まち)」

きっとあなたに、届いて欲しい。サンシャイン・エレクトロニック・ディスコ!
~YM-0 三部作-2

Featuring:まち
作編曲・プロデュース:弦央昭良
Release Date:2024/05/10

#EDM #チルアウト #ディスコ #エレクトロニカ

坂本龍一と東北ユースオーケストラ

 先日ラジオを付けたら、偶然「復興の奏で 坂本龍一の意志を継ぐ」という番組が流れてきて、興味深く拝聴。記憶を頼りに内容を書いてみます。
 東北ユースオーケストラは、東日本大震災で被害を蒙った東北を元気づけようと、坂本龍一さんの発案で始められた学生中心のオーケストラで、10年以上に渡って坂本さんが音楽監督として指導してきた団体。
 今回、メンバーや出演者の話を中心に構成された番組でした。

 楽団員たちは、坂本さんを「教授」でなく「監督」と呼んでいたようで、かなりの親しみが感じられた。異口同音に、音楽だけでなく人間としての生き方や思想まで学ばされてもらったという話。距離は本当に近かったようです。

 演奏会は音楽だけでなく朗読も入る形態の演奏ですが、そのため教授が誘う形で「のん」さんや吉永小百合さん(初期から参加)も出演しています。

 その吉永さんの話で面白かったのは、かなり初期に坂本さんが小三のバイオリンの女の子を指導していた話。子供相手でも指導は厳しく、なかなかできずに何度もやり直していたそう。そのうちウトウトして、その子は教授に抱きついて寝てしまった(w)。それを見て吉永さんは、本当の親子みたいと思ったとか。それ位、厳しい中にも距離が近かった。その子は大学生になるまで在籍していたそう。
 去年までは、吉永さんも役者として完璧にこなせたと思うが、坂本さん逝去のあとの今年だけは、舞台で込み上げてくるものがあって困った、というお話。

 坂本さんが震災をテーマに東北ユースのために書き下ろした「いま時間が傾いて」という曲の演奏が流れていましたが、本当に不思議な色彩感や質感があります。いわゆるアンビエントな感じ、まあプロ級というか、到底学生オケとは思えない。この曲は途中で無調になる箇所があり、不協和音が流れますが、これは震災のショックや不安感を表しているとのこと。最後に流れる11回の鐘の音は、3.11や9.11を表しているそうです。
 坂本さんは、合宿までこなして団員たちと寝食をともにして指導していたそうです。距離が近くなるわけです。

 調べてると東北ユースはなんと社団法人になっています。これは坂本さんの生前からのようです。
 ここで指導されたことは、学生メンバー諸氏にとって一生の宝になることは間違いありません。(やらしい話、プロフィールに堂々と書ける経歴でもある)
 これからもずっと続いていってほしい団体ですね。

「坂本龍一 最期の日々」で考えた

 NHKスペシャル「Last Days 坂本龍一 最期の日々」を見て思ったこと。

 まず、人の死とはとてもパーソナルな……というか究極にパーソナルなもののはずで、それをこんなに「パブリック」にしてしまっていいのか、ということ。ご本人やご遺族の許可はあったのでしょうが、それでも……。たぶん冒頭の、弱った坂本さんの姿を見てショックを受けた人は多いのではないでしょうか。
 ただ、少し考える中で、もしかしたら坂本さんは自身の最期を包み隠さず見せたかった、あるいは記録しておきたかったのではないか、と思えてきました。

 ふと思い出したのは、ジョン・レノンとオノ・ヨーコのベッドインです。この時はハネムーンで、マスコミの怒涛の取材を逆手にとった平和運動のアピールだったのですが、フィルムに残されています。ジョンは撃たれて死ぬわけですが、坂本さんは音楽家の死をひとつ、映像の形で遺しておきたかったのではと思えてきます。だから、カメラの前ではできるだけ気丈に振舞おうとしていた。

 そう思うと、どうやら意識がはっきりした状態で最後に聞いた(見た)のが、自身が音楽監督を務めた「東北ユースオーケストラ」の定期演奏会のネット中継だった、というのは象徴的な出来事です。音楽や思想が未来に受け継がれていくわけですから。
 この時、もうご自身の要望で、ターミナルケア(終末期医療)の真っ最中だったそうで、覚悟を決めておられたはずです……。その様子を、僕らは映像で見せられました。

 以前も書いたけど、音楽家の死というのは実に不思議で、その作品はいつまでも残るのに、本人はこの世から居なくなる。それがメディア化された芸術の宿命ですが、今回の番組で、はっきり人として坂本さんは居なくなったと僕らも認識できました。一周忌過ぎまで放送を待ったのは、作り手のせめてもの良識でしょう。

 ただ、遺された作品はやはり大きなもので、不謹慎ではありますが、坂本さんが最後に入院する前、小康状態だった間を縫って作られた断片的な未完の作品、自分もなかなか刺激を受けました。
 “響き”を主体としたオーケストラ作品(「自分の技量で完成するかわからない」とのコメント)、ちょっと聞いたところでは無調というわけでもなく、ハーモニーが聞こえたような……。これもまた広義のポピュラーミュージックといえるものかもしれません。

 あと、一度退院したあと、すぐにシンセサイザーを弾く、そしてシンセで曲のスケッチを作るところも面白い。ピアノだけではくシンセも最後まで弾かれていたわけで、これは自分としては嬉しいエピソードでした。
 他にも、楽曲の着想や構想を練るために、手近に音の鳴るベルを置いたり、ニューヨークの自宅庭に古いピアノを放置したりと、やはりDAWの前に座る前に、様々なことを試しておられたのだな、と。こんなところも実は楽曲制作のヒントが詰まっています。
 他にも雨音などの自然音の中に、何か音楽的な可能性を見出していたのではないでしょうか。

 かなり重い番組でしたが、人というのは日々亡くなっていくものではあります。坂本さんは最後の仕事(スタジオライブ収録)を仕上げ、家族に看取られて終末期医療の中で息を引き取ったのだから、悪くはない最期だったのかもしれません。

 私事ですが、自分も年齢から逆算して、あとどれくらい音楽を作っていられるか最近は考えている日々でした。今回の番組で、また覚悟を新たにしました。書きたい曲は書けるうちに早めに書いておかないと、絶対後悔する……ということでしょう。
 そのための環境作りも、今年は鋭意進めているわけです。

4/12 配信開始 「リベールシティ / まいみぃ」

4/13終日、サーバー会社ネットオウルのトラブルでブログが閲覧不能でした。
また4/12~のデータが飛びましたので、再投稿します

砂塵舞うシティストリートに、流れる想いは…。

「リベールシティ / まいみぃ」

作詞・作編曲・プロデュース:弦央昭良
Release Date:2024/04/12

#シティポップ #エレクトロニカ #JPOP