タグ: プラグイン

理想のマスタリング

 ミックス後のファイル(2mix)を最終処理する工程、マスタリング。一応、正確な用語では「プリ・マスタリング」ですが。本来のマスタリングはアルバム収録曲すべてのレベルや音質を、リスナーが続けて聞いても違和感ないよう揃えるものなので。
 ただ今は配信ならバラ売りだし、だんだん区別も付ける必然性が減ってきているのは事実。(こうしてみると、コンピ盤やベスト盤は、曲ごとに色々バラバラだから、マスター作りは難しいんだろうな)

 で、プリ省略して書きますが、理想のマスタリングとは、ズバリ限りなく透明であること、でしょう。音圧を上げるにしても、できるだけ2mixのイメージやダイナミクス感を変えない。色をつけないってことです。もちろんステレオイメージも変えない。
 そんな処理で済む2mixを用意しておく、という前提がありますが。つまり、何か曲のイメージを付けたいなら、ミックスの時にやっておく。もっといえばアレンジの時に予めその辺りも考慮して作るってことですね。幸い弊社(者?)の場合は上流から下流まですべてワンストップでやってるので、こういうことが出来るのですが。これが分業だったりすると、そうはいかないけど。

 最近ますますこれは確信に変ってきてます。マスタリングの時、つい色々試してみたくなるけど、結局いつも余計なことをせず一番素直なマスター用のEQとマキシマイザーを差してそれで終り。これが一番良い結果が出る。ミックスで全てやっておけば、あとは弄るべきじゃないわけです。幸い音圧戦争もとうに終り、あまりに音圧上げた曲は歪んで聞きにくいよね、ってコンセンサンスが出来てると思います。そうするとマスタリングで2段コンプとかも、余程のことがない限り要らないんだよなあ。

 まあ、マキシマイザーの類も、色がつくようなヤツは、他のミキサーさんがやった曲で、音質を揃えたい時には要る。ただ、アナログ感を予め出した2mixに、アナログ感のあるマキシを掛けたりすると、今度は歪んで聞きづらくなるもんね。(だから手持ちの「PSP Xenon」なんか、いいプロダクトだと思うけど結局いつも出番がない)

 逆に「テラMIDI」感のある2mixやパラデータだったら、徹底的に色をつけた方が良い結果が出るんだけど。(アビーロード系のはっきり色がつくコンプやEQが良い仕事をしてくれる、そんな時は)

 ここ数日はコロナのこともあり、ますますヒキこもって音楽制作と年貢計算に精を出しています(w)。

ギター音源の再現度

 今書いている曲で、どうもバッキングのアコースティックギター音源のコードがメロと当たる箇所があって、強すぎるのかな?とかボイシングかポジション?とか、ストロークの向きか、などと色々やってみたのですが、どうしても響きが汚い感じになる。
 なんでかと首を捻っていたら、はい、コードネームをふと見たらわかりました。「EbM7」……これ、本物のギターでも響きがよくないやつですわ(w)。ギターって一番響きがいいのは「E」とか「Em」とか根音がEのコードなので。そこから半音ズレたら、これは逆に一番響きが悪くなる感じ。

 だから、今のサンプリング音源は本当によく出来ているなあ、と感心してしまった。本物のギターと同じように、響きが汚いものはそのまま再現しているんですね。昔のMIDI音源なんかだと、例えボイシングを同じにしても、音程的にはジャストでキレイに響いたりするわけだから。

 もちろん、カッティング奏法なんかだと関係ないけど、じゃらーん、みたいなコード奏法だとモロに関係してくる。ギターはそもそも、#やbがついたコードは押さえるのも難しくなるし、結局響きもよくないですね。(ローコードは特に)

 こうなってくると、ギターでコードバッキングをしたいなら、曲のキーもなるべく素直なやつにした方が無難、ということになりますね。そしてコード進行も、#やbがついたコードは避けて代理コードにするとか、無理ならアルペジオやパワーコード等で逃げるとか、考えながら曲を書かないと。
(まあカポタストをつけるって手もあるか。このあたりも今の音源は当たり前に対応してます)

 キーがBbのフュージョンの隠れた名曲を調べてみたら、やはり代理コードでトニック以外のb系コードは避けてました。うーん深い!
 楽器の特性も頭に入れつつ、曲を構想してアレンジを練っていけ、コード進行も考えろということですね。その点鍵盤楽器、なかんずくシンセは最強ですな……。(これも倍音の関係でボイシングに配慮しないといけないが)

 昔は聞き分けられなかった細かいところがだんだんわかるようになってきてるな、と思う今日この頃です。作曲楽しいよ、もう底なし沼よ(w)。

TIPS: 日本が誇るDAW”ABILITY”高音質化

 たぶん日本全国で10人くらいしかユーザーがいないDAW、(株)インターネットのABILITY(Pro)――のチョイTIPS。……いや、いくらなんでもそんなことはないと思うが、毎日毎日起動して使い倒している人は本当にそれ位かもしれない(?)。そりゃCubaseなら100人単位でいるでしょうがね……。

 といっても一口メモみたいなもん、これがね、ミックス前に自分は必ずバウンス(オーディオ書き出し)して、そこからミックス作業に入ることにしているんですが、この書き出しファイル形式を48kHz/24Bitから48kHz/32bit(浮動小数点)にしたら、かなりはっきりとわかる位、音がクリアになって驚いたって話なのですわ。ここを読んでる方で何人ユーザーがいるか知りませんが、もしやってない方がいたら、ぜひ。というか、しばらく前のアップデートで32bit書き出しがデフォ値になったようなんだけど。
 32bitにすると音割れも原理的になくなりますが、それ以上に音質改善効果がありました。やはり24bitだと、まだ音質変化があるようで。最終的にCDフォーマットにする場合は44kHz/16bitで書き出しになるのですが。欠点としてはファイルサイズが増大するくらい。
 自分は2mixも勿論48/32で、マスタリング終わりでようやくCDフォーマットやmp3に書き出しです。

(この2mixも、48/24だと音が変ってしまう時は顕著だったが、48/32にした途端、DAWネイティブで鳴らしたそのまんまの状態の書き出しになった。驚きの白さTOP。いや洗剤か)

 ABILITYも3.0になってたぶんソフトをゼロから書き直しって位根本的改良を行ったようですが、オーディオエンジンも刷新されて元々高音質化しています。そこへ持ってきてこれは鬼に金棒(?)。
 そうそう、3.0の人柱期間も無事終って、また元のように安定した動きになってきました。たまに突然落ちることもあるが、まあ実用上は差し支えない安定度。なので2.0から上げてなかった方も安心してどうぞ。

 こいつは自分のような楽譜主義者にはうってつけのDAWなので、今後も頑張って欲しい。逆にDJさんには使いにくいかもしれない。
 まあ、ABILITYはガチ作編曲勢向けのDAWですわ、昔から。
(こいつの遠い先祖は、Rolandの「ミュージ郎」とかに付属していたソフトらしい)末永く、地道に活動しつつ使っていきますよ、この歳になると自分の分ってわかりますからね(w)。違うか。

ミキシングの低域処理

 ミキシングも慣れてくるとだんだんコツがわかってきて、作業手順なども効率化できるところはやって、スピードも上がってきます。この楽器のこの音域とボーカルは被るな、などとわかるようになってくる(アナライザーで調べてなくても、音を聞いてわかる)。
 ところが、いつまで経っても効率化できないのが低域の処理。普通のポップスの楽曲なら、ベースとキックドラム(バスドラム)の音の被り防止処理。これはいつもアナライザーとにらめっこしながらEQを調整し、音を聞いて確認し、の繰り返し。キックとベースの組み合わせによって、50-60Hzあたりでどちらかがピークになっているので、ピークは生かして被るところを下げる、という処理。下げすぎると迫力がなくなるし、上げすぎだと低域がボヤけてブーミーな感じになります。なのでカット&トライの連続です。アナログシミュ系コンプやEQなどの癖もあるし、なかなか一発では決まりません。

 これ、なんとかならないかと思って、その種の本を見たり、ミキサーの方のブログやら海外翻訳系の記事を見たりするが、どれも上のような泥臭い処理手順しか書かれていない。つまり、これは誰も効率化できない処理なのですわ(笑)。
 で、結局いつもミックスをモニタースピーカーで聞いたり、ラジカセやらコンポやら大型ステレオ、スマホで、……なんて総動員の事態になっちゃう。こうやってできるだけたくさんの環境で聞いてみる、という至極面倒な手順が、低域(+他の部分も)を確認する唯一の方法ということです。これ、第一線の専業ミキサーの方は必ず書いている方法なんですね。

 面白いことに、ハイ&ミッドは、モニターヘッドフォンでほぼきっちりバランスが取れるんですわ。ただ低域だけは、やはりスピーカーで確認しないとバランスを調整できない。非常に音のエネルギーが大きいので、大抵は上げすぎでボヨボヨした音になりがちです。
 ジャンルによっても低域の処理は違ってくるし(ロックやEDMならド迫力でいい)、このあたりはAI的なミックスプラグインが今後発展するにしても、結局人間が耳で最終確認しないといけないのでしょう。「方針」を決めるのは人間なので。

(スピーカーのことばかり書いたが、様々なヘッドフォンを試すってのも重要。ただ、リファレンスのモニタヘッドフォン&スピーカーできっちりバランスを取ると、大抵他のものでも良いバランスで聞こえます。流石にモニタはそういう目的で作られているだけある。粗捜し専用って感じ)

レビュー: リバーブ「80’s Spaces」

 このプラグイン、以前から気になっていたのですが、日本語のレビューが全く見当たらない上、結構微妙なデベロッパーと知られている(w)「Nomad Factory」のやつなので、どうしようか迷ってました(他社と共同開発らしい)。しかもYoutubeに上がっているユーザーレビュー動画まで微妙という、不安要素は満タン。ただサンプル音源を聞く限りなかなか良いし、英語のレビューで好意的なやつも見つかったので、試しに買ってみました。

 結果から言うとこれが当たりで、他のリバーブでこの辺りの年代を差したプリセットとかちょくちょくありますが、ああいうのとは一線を画すクオリティ。
 名前の通り、アーリー・デジタルとでもいうべき、’80年代のハードウェア・リバーブ機器からインスパイアされたもので、空気感や残響のフレーバーがよく再現されています。いわゆるエミュレーションみたいな内部回路動作まで同じ、ってものではなさそうですが、音が同じなら自分的には完全オッケー。
 80年代デジタルリバーブの帯域の狭いダークな感じの残響感、あれがカッコいいから欲しい、って人には最適。

 ぶっちゃけ当時の代表機種だったLEXICONのヤツなんて、メーカーによる完全再現プラグインがあるけど、一式揃えるとかなりの金額になっちゃう。

 そこへいくとこの「80s Spaces」は、複数の機種を再現しつつなかなかリーズナブルなお値段。最近夏・冬くらいにバーゲンしてるけど、そうするとお馴染みWaves価格まで下がります。なのでここが狙い目。

 以下、海外掲示板で見つかった、再現機種一覧。

– Iconic 20 (Lexicon 200)
– Iconic 24 (Lexicon 224)
– Iconic 48 (Lexicon 480L)
– Iconic PCM (Lexicon PCM 60 or 70)
– Event 3000 (Eventide H3000)
– Retro MX16 (AMS RMX 16)
– Japanese 90 (Yamaha SPX 90)

https://www.kvraudio.com/forum/viewtopic.php?t=496931

 プリセットもたくさん入っていて即戦力。軽いし、手持ちの中では今後もなかなか活躍してくれそうなヤツです。

 それにしても、当時のハードウェアの制約(メモリが少ない、CPUの能力が低い)が、時代のアイコンみたいなリバーブサウンドを生み出していたんだから、面白いもんです。

ミックスTIPS: リバーブとEQの順序

 久々に実用記事っぽいやつ。ミックスダウンの必需品エフェクトといえば、残響系のプラグイン。リバーブ(お風呂場エコー)とかディレイ(山びこ効果)なんかがこれに当たりますね。これらを入れないミックスは皆無といってもいいでしょう。
 ただ、カラオケボックスで歌うだけならともかく、やはりミックスの場合は掛けるだけでは駄目で、EQ(イコライザ)で音質の補正も必要になってきます。
 具体的には、全帯域にエコーを掛けっぱなしにするのではなく、ローかハイをばっさり切って音の篭りを防止します。そうしないと他のトラックと干渉しあって透明度が失われるので。
 ローかハイ、と書いたのは、実はミキシングエンジニアによって正反対のことを言う人がいるからですね(w)。具体的には、濁りを防止するためにローをカットしろ、でも別の人はハイをカットしろ、とかね。曲のジャンルによっても違ってくるというのはあるのでしょう。
 自分は一貫してローカット派なので、そっちにあわせて書きますが、このカットのためのEQを入れる場所というのも、音質に影響してくるのを最近気付きました。

 エコーなどはFXトラックへSENDで音を送ってそちらで掛けるのが常套手段ですが、そこで音質補正のEQもここに挿すわけです。ところが……

(1) EQ -> REVERB
(2) REVERB -> EQ

 この1と2では音質にかなりの差が出るのですね。自分はつい最近までその辺りは気にせずにずっと1の方式で来ましたが、2の方も試してみたところ、かなり「自然」な残業が得られました。逆に少し篭り気味といえばそうです。どちらかといえば、生楽器などに合う並びといえるでしょう。ナチュナル系。
 1だと篭りは感じられない明瞭な感じになりますが、その分音が軽く微かに不自然ではあります。シンセなど電子音や、ドラムの重低音などあまり音が篭っては困る場合に良さそうです。ソリッドな感じ。
(結局カットとした信号にエコーを掛けるか、エコーを掛けてからカットするかの差)

 こんな簡単なことでミックスが改善するのだから、面白いもんです。やっていなかった方はぜひお試し下さい。

 ちなみ、残響系プラグインの中にもローパス・ハイパスフィルタが入っているものがありますが、自分はあまり触りません。プラグインによってフィルタの効きがバラバラで、制御しにくいからです。やっぱり外部のEQでやった方が効きが同じなので制御しやすいですね。

Eギターのミックスで気付いたこと

 といっても例によって打ち込みですが、エレキギターというものはアンプと組み合わさって初めて一個の「楽器」となるわけですね。正確にいうとアンプと(ペダル)エフェクターか。
 今の音楽制作だと、ご存知のない方は驚くと思いますが、ギター音源はギターのほぼ生音そのまんましか入ってない、それに本物と同じように、プラグインのエフェクターやアンプを繋げ、それをマイクで拾う、というところまでパソコン内でできてしまう。こうすると、打ち込みかリアルかの判別は非常に困難といっていい、ベタ打ちじゃない限り。特に歪ませてしまうとまあ判別不能。(それでも微妙なニュアンスや、音の揺れやノイズなどで、結局は本物が一番なのも事実)

 で、こうなると実際と同じように音作りをしなければならないわけで、リアルな分面倒といえば面倒(この分野にもプリセットはあるが)。
 今は打ち込みのことを書いたけど、別段アンプシミュレーターは本物のギターに使ってもいい。リアルタイムの音出しにも、録音にも使えます。というか、今の主流はこっちの用途の方が大きいのかな? エフェクターやアンプを持ち運ばなくてもノートパソコンがあればそれで済んでしまう(やや簡易版だがスマホ用もある)。

(ここからいきなり作曲勢にしかわからん話)
 で、最近少しづつアンプシミュをGuitar Rig5からAmplitube4にしてみてるんだけど、アンプリはリアルで確かに音がいいんだが、その分結局ミックスで苦労するんですわ。Guitar Rigは、作曲中に音を聞くとなんだか冴えない音抜け悪い感じなんだけど、ミックスするとかなりハマる。だから用途が違うのかもしれんね。アンプリはリアル用、ギタリグは打ち込み用の製品じゃないのかしらん。イタリアvsドイツで、音にもお国柄が出てる気がする。アンプリはスカっといい音だが暴れ馬、ギターリグは糞真面目なドイツ人のカチコチ感がある。
 それでも流石にギターリグは音をもう少し何とかして欲しいって思う時があるから、両者のちょうど中間くらいの製品があったら嬉しいんだが。Ver6に期待か。
(BIASもリアルな分、ミックスで苦労するのかな?)

 ちなみにWavesのアンプシミュは、なんだか無印駄アンプの音がして、それはそれで嫌いじゃない(w)。世の中ブランド製品じゃないのも欲しい時があるじゃないですか? 根無し草なのはイスラエルだからか。あとストンプは意外と出来がいいです、皆持ってると思うから一度試して下さい。(これもなんかのモデルって感じじゃないが)

 悩める秋の夜長に。

ミックスTIPS: ボーカルの位相ズレ

 たまには気紛れに実用的なTIPSシリーズ。
 この前のデモ曲で、ボーカルトラックを処理していて気付いたこと。どうも一箇所、位相が狂っているのか、フレーズの最後の部分で、フランジャーが掛かったような音になってしまう箇所がありました。
 変なコンプを強めの設定でかけるとこうなりがちだけど、その時はWaves CLA-2Aとか筋のいいやつしかプラグインチェインの中になかった。
 案の定これをオフにしても同じだし、EQはこれまたかなりインテリジェントなRenaissance EQ、試しにOFFにしても同じ。それでなんだろうと色々と試していた。

(ボーカルトラックの処理は、一番気を遣う箇所です。人間の耳が最も聞き慣れていているのは人の声なので、少しでも変なところがあるとリスナーはすぐに不自然だと気付きます。今回のは放置できない)

 この時も10本程度はプラグインがぶら下がっていました。
 最終的に、犯人は意外なヤツでした。それはDeEsser。これも特殊用途のコンプなんですね、「サ行」の音みたいな気になる音の周波数帯だけ瞬間的に圧縮して軽減します。これが効き過ぎていて、位相が乱れてしまっていたわけ。

 さてどうしたもんか、スレッシュルドを上げると軽減がぬるくなるしな、と思ったのだが、そういやRenaissance DeEsserがあることを思い出し、こいつを挿したら一発で止まりました(w)。やっぱりルネッサンスシリーズは、内部でかなりインテリジェントな処理をしてるんですね、超便利。
 こいつとDeBreath(ブレス軽減プラグイン)は有用なので、もし未使用の向きは使った方が良いです。ほぼ何も考えなくても破綻せず使えますからね。
(まあブレスノイズは必ずWav編集で消してるけど、消せないやつもある)

 他にこの曲だと、特定箇所でエレピの音とボーカルが重なって波形合成現象らしきものが起こって、ブッチ音が発生した、これも2mixに落とすまでは発生しなかった現象。それでミックスにもどって、ここだけエレピの音を一瞬絞って解決した。こういう変なことが、ミックスをやっていると時々起こります。このあたりは本を見ても書いてないし、自分で原因を予想して対処していくしかない。
 ミックスがエンジニアリング(工学)の範疇だといわれるのもわかりますね。

コンプレッサー小論

 最近ミックスしてて気付いたこと。

 ミックスダウンの必需品といえばコンプレッサー。本来はトラックごとの音量感を揃えたり音圧を出したりといった用途のプラグインですが(ハードもあるけど)、最近ではもっと積極的に音質を変えたり、アタックやリリースを調整してノリを変えたりと、音作りツールとしての価値の方が重要視されてる。いわば音の色付けですね。

 そこで、スタジオにあるハードコンプをモデリングしたプラグインが多種多様作られ大人気なわけですが、これらはかなりはっきりと色の付くものが多いように感じます。もしかしたら本物より更に本物っぽい、って言い方も変だが、ちょっとマンガチックに誇張されているものもあるんじゃないだろうか。でないとユーザに文句言われそうだもんね、効果がはっきりしない、なんてね。
 で、それはそれで使う方もわかっていればいいわけで、実際自分も大好物で、打ち込みの楽器をリアルにしたい時に大変効果的だったりします。これは宅録したハードシンセに使っても同じ効果がある、宅録のシンセ類は音がやっぱりアッサリ綺麗すぎるのですね。

 ところが、以前も書いたが、これらのモデリング系コンプをソフトシンセに使うと、ソフトシンセの良さが死んでしまい、まるでハードシンセの音みたいになるんですわ。これは実機モデルのEQやチャンネルストリップでも同じ。前々から薄々感じていたが、今回色々試してみて確信した。面白いもんで、あれだけ技術の粋を集めた実機モデリングが、完全無駄で有害なものになってしまう。
 ソフトシンセって、なんのかんのいって「デジタルな美しさ」があるじゃないですか? 歪み感や汚れとは無縁の無垢で澄み切った感じ。作曲勢の皆様ならわかりますよね(w)。
 これはこのまま活かしたいわけで、となると実機モデルなんてもってのほか。コンプなんかWaves C1でいいし、EQなんかQ10でいい。なんならどっちもDAW付属のやつで充分。余計な色づけは一切ない方が望ましいのです。

 面白いですねえ、ソフトシンセってのはパソコン内のみの“生命体”だから、実機のしがらみ?なんかで汚さない方がいいんだな、こいつらは。逆にハードシンセ風にしたかったら実機モデル使えばいい。
 今風の打ち込み曲だったらこれでOK、今はプラグインも多種多様だから、適材適所で色々と使い分ける必要があるわけです。これらは全て最終的には良い音をリスナーに届けるための工夫。

 作り手としてはリスナーにkneeと微笑んで欲しいわけですね、コンプだけに。
(わかるかな~?w)

「ブルーライト・ヨコハマ」の秘密

 いつか聞こうと思い買ってあった古いレコードが何枚かあり、その中に「園まり」のアルバムがありました。調べたら1969年発売のものらしいが、今でいうカバーアルバム。昔の歌手はカバー曲をよく歌っていて、オリジナルアルバムでも半分くらいカバーとか良くあった、しかもほとんどアレンジが同じとか。
 まあそれはいいとして、この中に「いしだあゆみ」の大ヒット曲「ブルーライト・ヨコハマ」が入っていて、懐かしいなあと思い聞いてました。
(今じゃすっかりブルーライトは悪者だけど、港の照明のことだからね)

 さすがに当時は自分も幼稚園に行くか行かないかの子供(w)。ほんと日本人なら誰でも知ってる、という位の流行りようで、「ものすごくきれいな大人のお姉さん」がおしゃれで都会的な歌を歌っているなあ、と、無論そんな言葉も知りませんでしたが、あとから思い返してみればそんな印象。(その後何年も歌番組で歌われていて、そっちの記憶だろうなあ)

 で、園まりのブルーライト・ヨコハマも良かったのですが、やっぱりアレンジがほぼ同じ感じ、しかもボーカルのエコー処理まで同じ、それで「おっ」と思った。
 原曲を知っている方は思い出してみてください。ボーカルに独特のクリアなエコー(ディレイ=やまびこみたいな残響)が掛かっていませんでしたか? あれでかなり曲の印象がお洒落になってると思いますが、まだ1968年ですので、ハードのデジタルディレイなんて絶対ありません。テープレコーダーの技術を応用したテープディレイならありましたが、やはりこんなクリアな音は出ません。
 では、このディレイの正体は何か? なんだと思いますか?(笑)

 これが今回の本題ですが、ほら、やっぱり分析始めちゃうんですよ。
 で、まあ、答えをいうと、これがエコー・チェンバー(ルーム)だったんですが。

 床や壁をタイル張りにして音がよく反響する小部屋を用意します、その中にスピーカーとマイクを入れれば、はい!エコーチェンバーの出来上がり。あとはボーカルだけスピーカーから流してマイクで拾えば、あのクリアなディレイが得られるというワケ。昔はこんな苦労してたんですね、今からするとアナログで物凄く面白いけど。
(このあと鉄板を使ったプレートリバーブや、スプリングリバーブが開発される)

 海外の古いスタジオにはまだ現存するところもあるらしいが、国内にはもうないでしょう。(お大尽のプライベートスタジオならもしや?)

 実はこれ、なんで気付いたかというと、どこかにミキシング話が載っていたわけでもなく、音でわかったのですね。

 最近、またまたWavesのプラグイン、「Abbey Road Chambers」を買いまして。はい、もうオチが分かった人もいると思いますが、これのデフォルトの音がブルーライトヨコハマのディレイとほぼ同じ(笑)。本当に同じ質感なんで、びっくりですわ。エコーチェンバー再現を目的にしてるとはいえ、よく出来たプラグインだなあ、と。流石世界のARスタジオは期待を裏切らない。
 こんなやつです(↓)。部屋、ありますよね。柱は定常波による一種のハウリングを防ぐためのもの。

 50年からの時空を超えて、こんな形でブルーライトヨコハマの謎が解けるとは。という、ファンタスティックな話でした。まあ諸先輩方には常識だったかもしれませんが。

(この曲、Wikipediaによるといしだあゆみさんの26枚目のシングルだそうで、嘘でしょ?当時二十歳そこそこだし……と思ったら、15歳位でデビューし、「毎月」新曲を出していた時期もあったらしい。恐るべし高度成長期の音楽業界! 80年代アイドルの3カ月新曲で驚いている場合じゃない。ってこっちの方が秘密っぽいか)

(思い出したが冨田勲先生が、「新日本紀行」のテーマ曲で柏木に非常に長いリバーブが欲しくなったとき、エコーチェンバーでも足りず、NHKの施設ビルかなんかの階段室で同じことをやった、という話は有名ですね。あの驚異のロングリバーブは、当時謎だったらしいですわ)