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暴れ馬シンセ?

 最近感心したこと。ある曲のベースパートをアナログシンセmoog mother-32で作って、アレンジ完成したのでProtoolsでレコーディングしていたんですね。(ハードシンセなので録音作業が必要になる)
 MIDIでドライブしているので、レコーディング自体はスムースに終わりました。
 ところが、録った音を聞いたらまあ暴れてるのなんの。単品で聞くとそうでもないが、他のパートと一緒にすると、エッジが効き過ぎてブチブチとまるでノイズみたいな音が頻発。
 mother-32は割りとキレイに音がまとまる系統のシンセだと思うが、パッチングでFM変調を入れていたので、そのせいらしい。
 さすが本物のアナログシンセ、まさか破綻するまで暴れるとは、モデリングとは違うな……などと感心している場合じゃなく(w)、なんとかしないと2mixが完成しない。

 で、エンベロープでAttackを僅かに遅くして再録音したり、コンプの設定変えたり、果てはWavesのSibilance(ボーカルの歯擦音を抑えるプラグイン)をコンプの前後に入れたりと色々やって、なんとか抑え込んだ。最後に一つだけ残ったノイズは、もうボリューム処理ですよ。そこだけ一瞬ベースの音を絞ることで乗り切った。
 ここに至るまで、書き出した2mixの数なんと17本。他のところは全く問題なく終っていたので、この対応だけでそれでけ掛かりました。

 まあ考えたらエレキギターだって、設定によっては録音が破綻することなんて珍しくないもんね。ほんとにアナログシンセは生楽器だな、と妙に納得した日でした。
声:音読さん

アッテネーター代用

 今回モジュラーシンセ関連の話。

 Moog Mother32とベリのSystem100の間の接続ですが、一応どちらもユーロラック仕様だから、そのまま問題なく繋がるはずと思っていた。が、調べていくときっちり規格が決まってない箇所もあるらしく、ベリからムーグにEnvelope GeneratorのCVを送ると、あきらかにM32側がクリップした音の動きになっているんですね。つまりベリ側の信号が大きすぎるってこと。

 どうもsytem100はmax 10Vppで、M32は8Vppみたい。そこでこんな時登場するのがアッテネーターですが、これはまあ要は抵抗器です。一応、ユーロラックでアッテネーターのモジュールもありますが、大抵パッシブ(無電源)、中身ただの可変抵抗(ボリューム)なので。
 それを入れてもいいけど、またパッチポイントが増えるのと、ラックの場所も食うので、なんとかならないかと考えた。
 そのまま自作で抵抗をかますかと思っていましたが、ふと思いついた。オーディオアクセサリーでボリューム付きの延長ケーブルがあったではないかと。

 アマゾンで捜したら、30cmくらいのものでボリューム付きのノーブランド品が、2本セットでリーズナブル価格で見つかった。3.5mmプラグのステレオ仕様だけど、今回は実質的に無害のはず。(モジュラーはモノプラグ)
 で、買ってつなげてみたら、もともとの抵抗値もあるし、実にいい具合にアッテネートしてくれて、CVが落ち着いてドンピシャでした。ボリュームもあるし、場所も食わないしで最高。

 ただ、中国製ノーブランド品ゆえ、可変抵抗の接続が入出力逆らしく(w)、本来とは逆向きに繋がないと機器に負担が掛かる。(一応、最近のオーディオ機器は設計が優秀なので大丈夫だけど、モジュラーシンセはどうだかわからない)
 このあたり、アマゾンのコメント欄で親切に警告してくれている人がいて助かった。自分もテスターで測って確かめた。

 こういう、パッチケーブル間に挟むだけのアッテネーター製品もモジュラー業界にあるけど、やっぱりお値段はそれなりにする。
 工夫次第で気をつけて使えば、オーディオ用の製品で代用できますよ、って話でした。

補遺・「PLANETS」再訪

 どうやら「惑星」でmoogモジュラーシステムを2台使っていたのは確定です。
 「惑星」の次に出た「宇宙幻想」のライナーノーツを見たら、機材リストに「moog IIIp」「moog System55」とはっきり書かれていました。さらにRoland Sytem700も載っているので、どうやらフルサイズのモジュラー3台体制だったらしい。正直今回は度肝を抜かれました。
 これって業界や世間で共有された情報でしたっけ? 自分も1台だと思っていたし、色んな記事を見てきたけど、1台…って感じの扱いばかりだった記憶しかありません。
 最初期の写真だとIIIpが映っていて、その後はSystem55ばかりなので、機種を変えられたのか……と自分は捉えていました。
(IIIpは最終的には修理不能なほど故障して、NHKの放送技術博物館に寄贈されていますね)

 あと「惑星」のライナーは冨田先生ご自身で書かれていますが、その中にとんでもないことが書かれていました。
 弦楽パートは、moogとRS-202を併用したというのですね。202はRolandのストリングス(アンサンブル)キーボードで、トミタサウンドにおける弦楽パートという、非常に重要な役割を担っていたわけです。
 実は今回「惑星」を聞き返していて、今の耳で聞くと弦楽パートで、なぜかストリングスKBっぽい音が聞こえるが気のせいか…と思っていたんですね。これまで読んだ分析記事の類だと、必ずmoogを20回とか弾いて重ねて……みたいな話でしたね。なんと、公式中の公式情報、作品のライナーノーツでこんな「種明かし」がされていたのです。(重ねたのも事実でしょうが)…昔読んだけど失念してた(汗)。

 あと面白いのは、シンセの音をスピーカーで鳴らしてそれをマイクで拾った……という試みをしたパートがあること。メロトロンをそのまま使うのではなく、VCFやVCAを通して加工していること(+moogと併用)。そしてシンセに対する姿勢、どういう意識で「惑星」を制作したのかがわかります。「惑星」の物理メディアを持っている方は、ぜひライナーを読み返してみて下さい。

 フェンダーローズが機材リストに載っていて驚いたのですが、一体どこで使ったのか……と考えて、あぁあれだと。隠し味……ではありません。とても目立つところです。音の鳴りかたがモノシンセじゃないので、読者諸兄ならすぐおわかりになるはずです。ぜひ考察してみて下さい(w)。

 今回思ったのは、Rolandはトミタサウンドにおけるバイプレーヤーとして、非常に重要な役割を果たしていたんだな、ということ。あくまで主役はmoogですが。
 ちなみ、宇宙幻想では、デジタルシーケンサーの走り、Roland MC-8が満を持して導入されています。

TOMITA「PLANETS」再訪

 久々にトミタシンセサイザー作品の金字塔・ホルスト「惑星」を聞き返していました。こういう名作は聞き返す度に発見があって、有り難いことに制作上のヒントも見つかります。

 そして、これは本当に久々に(多分20年振り位?w)に、LP版のほうのライナーノーツを見てみたんです。いつも曲だけ聞いてライナーなんか見ないので。そうしたら、仰天するような情報が載っていて……。

 実は、冨田先生はミックスダウンはどうしていたんだろう、と最近思うようになったんですね。もちろん冨田スタジオにマスターテープレコーダーやミキサー機材一式があったのは知っていたけど、作品を聞いてわかる通り、かなり複雑精緻なミキシングワークを駆使しているので。たとえばマルチトラックで録音したあと、完全にスタジオ内で2mixを作ったのか、それともラフだけにして、商業スタジオに持ち込んでそこでエンジニアに指示して作ったのか。
 後者ならスタジオの名前がジャケットのどこかに載っているはずだと思って調べてみたら、これが全く見当たらない。ということは、やっぱりミックスダウンまで行ったということでしょう。やはり凄い方です。

 ……と、ここまで終らなかったんですね、ライナー見たら。なんと、「惑星」の制作に使った機材一覧の名前が書いてある。moogシンセサイザーに至っては、モジュールの名前と数量まで(!)。僕らにとっては宝の山みたいな情報です。(昔も見たはずだが、そこまで機材に詳しくなかったので、すっかり失念していたようだ。嗚呼)
 特筆すべきはオシレーター類の18個、そしてENVは12個。VCFとVCAは5・9個。あとユティリティ系モジュール盛りだくさん。最初に冨田先生が購入したというmoog IIIpの構成を完全に超えているので、もう1台買ったか、あるいはmoog system55とかを別に買ったか……。そういやSystem55(箪笥)も昔の写真にありますね。
 あの巨大なモジュラーシステム2組分で作品を作っていたのです。
(だからキーボードユニットも2台かと納得。更に買い足したモジュールもあった感じ)

 またRolandのシステム700(moogと同じフルサイズのモジュラー)の名前も見えます。
 キーボードとしては、Roland RS-202やフェンダーローズ、クラビネットもあります。あとこれは有名だけどメロトロンも(鍵盤の数分テープレコーダーを内蔵したアナログサンプラー)。
 ピックアップ付きのシタール、電気ハープもあります。

 周辺機器も面白い、フェーザーだけで4台あるし、Roland Space Echo RE-201も使われている。
 いやーびっくりです。

 マスターレコーダーは16チャンネルで、他に8~2chのものが数台。あれだけの作品なので16では全く足りなかったはずで、かなりピンポン録音などを駆使してトラックのやりくりには苦労されたんじゃないでしょうか。

 ある意味、これだけ詳細な機材リストは、手の内を明かすようなもので、なかなか表に出すことを躊躇う方もいるでしょう。ただ冨田先生はご自分から公開してくださったことで、こうして後世から研究したり参考になったりするわけです。
 リストの全貌が見たい方は、CD版「惑星」にも書いてあるので、そちらを参照して下さい。
 あの音はこうやってるんじゃないか……ってことを考えるだけで楽しいものです。