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音圧・音質戦争はここまできた?

 配信楽曲の音質について、最近気付いた驚愕の事実。どこから説明したらいいかわからんが、順を追って。

 音楽制作用とは別に、軽くCDを聞いたりYourubeを見たりするとき使ってるJVCのヘッドフォンがあるんですね。エンドユーザー向け、価格3000円位で、密閉型オーバーイヤーで気に入って壊れても買い続けている。疲れない音質で、なかなかの製品。
 実はこいつを、楽曲マスターを最終確認したあと、エンドユーザ環境のリファレンス(?)のひとつとしても使っています。リスナーにどう聞こえるか、それも重要なので。

 ただ、これでバランス良く聞こえても、いざサブスクに投げると、あらら……ってこともあるので、もう一つユーザー環境のリファを増やそうと、この度ソニーのMDR-ZX310という、やはり同価格帯のリスニング用ヘッドフォンを買った。

 ところがいざ届いて試聴すると、これがもう驚愕の音質で。高音域がざっくり削られてて、分厚い膜が掛かったようになっている。最初はわれとわが耳を疑ったよ。あるいは初期不良じゃないかって。エイジング不足?いや、そんな生易しいもんじゃない。シンセに例えるとカットオフのツマミは半分くらい。
 どんな音楽ソースを試しても同じ……ではなかったです、こんな製品で自然に聞こえる曲があった。

 業界に配慮してあえて曲名は伏せるが(w)、まあ最近の音圧爆上げ曲ですよ、どれも同じです。これらのイマドキ曲は、実は音圧だけでなく、高音域も異常なくらい強調してあるんですね。僕らは聞くのがつらいです。マンガチックに言えば剣山を両耳に当ててグリグリされているようなもんだから。
 この曲が、なんとソニーのZX310で聞くと、自然に聞きやすく聞こえるのです。高音域がバッサリ削ってあるから(!)。

 どうですかこれ? あまりに最近の配信曲の音質が異常なので、とうとうメーカーがそれに合わせた製品を出すようになったということです。
 実は該当製品のレビューには、自分と同じように高音域が全く出ていない、故障だ捨てたという文句が(数は少ないが)あります。たぶんこれは従来の音楽ファンだろう、昔からの正常な音質を知っていれば、当然そういう感想になるはず。

 いやあもう、あきれて物が言えない。これ、スマホで聞くと一応聞きやすかったりするんでしょう、そりゃ歌詞は聴きやすいだろうが……。なんだかどんどん状況が「良質な音楽を届ける」って方向から遠ざかってるんですが……。
(この曲、念のためmp3を買ってチェックしたが、LUFSは「-6db」だったよ。業界の皆さん仰天するでしょ? サブスクの推奨値がせいぜい-14だから……)

 もうこれは最終的にどこに行き着くか、当方にもわかりません。なにか技術的なブレイクスルーが起こって、ガラガラポンできる日が来るんだろうか。
(だから、若い人でも耳をやられた人が、アナログレコードの音の“良さ”に惹かれたりって現象が起きてるんでしょうね。 →今の曲は長期間聞き続けると「聴覚」に異常を来すレベルと思われます)

再びマスタリング考

 またぼやっと制作話を書いてみます。
 Ozoneでマスタリングしていて結構前に気付いたことだが、これってボーカルが2mixより大きくなるね(少なくとも聴覚上は)。ボーカルだけでなくコーラスも大きくなる。だから人の声にフォーカスするように作動してる。
 たぶんそういうニーズを汲んでアルゴリズムが作られたんだろうが、つい忘れて痛い目に遭いがち。2mixでジャストの音量だと、マスタリング後にボーカルが大きくなりすぎるから。だから2mixはやや抑え目ぐらい(バックキングがやや大きいかな?…程度)がちょうど良い。

 このあたりも、ヘッドフォンやミニコンポではなかなか判別がつかず、フルサイズのステレオコンポでようやく気付いたりする。

 ……しかし、毎回このステレオコンポの話も書いてるが、このネット配信時代に本当にコンポをリファレンスにするのが正解か、ちょっと疑問になってきた。モニターSPの他は、ミニコンポかラジカセにすべきじゃないか、とか。以前も書いたが、音圧を上げたマスターは、ハイファイのコンポで聞くと、結構耳がつらい音になる。かといってそっちにガチッと合わせてしまうと、今度は音圧が足りなくなるんじゃないかと心配。
(まあ、コンポだと純粋にアラが見えることが多いから、助かっているけど。逆にいえば、今のところコンポであわせると、他の環境でも録音物のバランス・品質は向上します)

 マスタリングも、目指す「音」によって、正解が複数ある世界だから、考え考えその時々で(曲によって)ベストの答えを見つけていくしかないのでしょうね。

ディザリングのニッチな問題話

 いやぁ、最近ちょっとは耳が良くなったかな、earだけに。
 …そろそろ誰か止めてくれ。

 音楽制作で、マスタリングまでやっていると、必然的にぶち当たるのがデジタル変換ノイズの問題。パソコンを使った制作だと、内部的には音もすべてデジタル処理される訳ですが、最後にCDに焼くためのデータ化の時、内部データと仕様が違うと、変換処理しなけばならなくなります。CDと同じデータ形式(44.1kHz/16bit)ならそのままでOKだけど、今は高音質化のため大抵48kHz/24bitで行っているので、ここでどうしてもコンバートが必要になります。ところが何も考えずに変換すると、原理上耳障りなノイズが乗ってしまい、かなりマズいわけ。これを目立たなくするために、わざと最初から極小ノイズを乗っけてカモフラージュする、これがディザリングの原理です。(というか、自分はそう理解しているぞ)

 少し前、CDリリース用のデータを準備する機会があったんですね。それで、マスタリング後のデータ48/24を、44.1/16に書き出したわけです。ここで当然、ディザリングの出番です。Sonnoxのリミッターに16bitディザーが入っているので、これを最終段に通してディザーONにしたんです。
 ところがね……どうもこれが調子良くない。書き出したファイルを確認すると、なんだか全体的に透明度が失われていて、それこそディザーで汚しました感がしっかり出ちゃってる。
 ディザーをオフにしてもまだおかしいので、一度リミッターを外して、そのままで書き出してみた。そうしたら、非常にすっきりと透明度の出た、きれいな音だったわけ。おかしいなあ?ディザリングしてないハズのに、なんでこんなにいい感じに変換できるのか。ミックスの加減でこういうこともあるのかな、などと思っていた。

 しかし、流石にこのまま納品してしまうのも怖い、ディザリングは常識だし……と思い、もしや?とDAWのマニュアルを隅々までチェックしたが、それ系の設定項目はなし。我らが(株)インターネットが誇る最先端DAW「ABILITY PRO2.5」が自動でディザリングなんて気の利くことする訳ないし……と悩んだ末、とうとうサポートに質問投げてみた。

 翌日来た回答は……なんだったと思いますか? なんと、書き出しデータ形式を変えると、自動でディザリング処理してたんですよ! おい、それならそうと早く言え!(笑) あやうく二重に掛けて納品するところだったじゃないか。道理でSonnoxリミッターでノイズが乗ったような音になるわけだわ。これインタネWebの機能比較表には確かに載ってるが、マニュアルには一切記述がない。大丈夫かなあ、自分のほかにもプロで愛用者いると思うが、知らずに二重ディザーやっちまってる人がいたりしないか。ユーザー少ないから大丈夫?そうですか。

 いやもう、自分の耳は信用した方が良い、最後に頼れるのは自分の耳って話ですわ。
 これもデモ曲用に結構マスタリングをやってきたから、耳が出来てきてた、っていう流れなんだと思う、明らかに。

 まあ、ディザリングを切れない(=任意のディザーソフトを使えない)のは問題だけど、48/24のまま書き出してOZONEでやってもいいし……しかし注意書きは欲しかった。

 蛇足ながら、Sonnoxリミッターにも怖ろしいクソ仕様を発見した。こいつのディザーは、オンにすると16bitディザーとして働き、オフにすると24bitディザーになります。
 つまり、どうやっても絶対に切れないって寸法。おいちょっと(笑)、そんなのアリ? 道理でオフにしても音がおかしかったわけだ。ひゅー冷や汗。マスタリング最終段専用やん。
 というか、自動ディザリングのABILITYでは使っていけないリミッターじゃないか(笑)。えぇぇ?これヤバすぎっしょ。インタネさんOFFスイッチ付けて。

 ボカロP時代には良く使ってたが、最近は使ってなかった、ああ良かった。思えば昔はディザーなんて全く気にせずやってたなあ、どうせ128のmp3より音が悪いかも?って世界だったし。

 以上、優雅な生楽器プレイヤーの皆さまには無関係な、制作屋特有のエピソードでございました。

(追記/書き忘れてたが、SonnoxリミッターはABILITYに付属してます。ニッチな問題だけににっちもさっちもいかない、ルイ・アームストロングちゃうで)