日: 2018年11月13日

リチャード・カーペンターのプロデュース力が結晶「TIME」

 カレンのソロを聞いたので、次はいよいよ兄リチャード・カーペンターのソロ1作目「TIME」を入手。
 これが非常に味わい深い作品で。5周くらい聞いたけど、聞くほどに魅力が増すワンダースルメ感覚。
 世間的には、カレンが亡くなったあとはパッとしなかった人、という扱いかもしれないし、このソロも評価されているとはいえない現状でしょうが、音楽マニアとか制作をやっている人間には、堪えられない内容でした。

 1曲目・2曲目あたりは、王道80年代サウンドみたいな、ミックスでスネアが強エコーでバーン、キックドラムがドンの、ベースもタイトで大き目、キラキラピカピカなドンシャリサウンド、リバーブもレキシコンーみたいな、そんな感じの曲ですよ。シンセも入ってきたりね。1曲目なんかボイスのサンプリングも使ってますからね。(このアルバムは1987年発売)

 ……で、やっぱ滑ってるんですわこれは(w)。いや、楽曲の出来はそれはいいですよ。まあ例えるなら高校で優等生だった真面目君が、大学デビューでお洒落トレンディ野郎にイメチェンして大失敗みたいな(←我ながらイジワルか?)。
 なんとなく「ぼくのかんがえたさいきょうのAOR」感が漂う。

 うん、もしかして昔聞いて挫折した人がいたら、この最初の2曲で止めた人かもしんない。それくらい浮いてる。で、ライナーを見ると、この2曲は実はリチャード作曲じゃないんですね。その意味では、ご自身もこの手の曲は得意じゃない、という自覚があったのかも。(アレンジはすべてやられてます)

 そして3曲目でようやくリチャードのバラード曲、女性ボーカルはダスティン・スプリングフィールド。ここで一挙にああ、これはカーペンターズの流れから進化してきた楽曲だ……という雰囲気になります。

 4曲目、これも80年代的な、リチャードの一人多重録音によるアカペラ曲。後半、リチャードのピアノが入ってくるのですが、それと一緒にフリューゲルホーンの音が聞こえてきて、ドキッとします。この16小節ほどのソロのまあ素晴らしいこと。まさか?と思ってライナー見たら、やっぱり! ハーブ・アルパートでした。社長美味しいところ持ってくなぁ、最高じゃないか。

 5曲目「TIME」、リチャードのピアノをフィーチャーしたインストの小品。これが実にお洒落70年代フィーリングで良い感じ。それこそ、ちょっとクレイダーマンを思い出す出来かもしんない(w)。

 ちょっと前後するが6・8・10曲目再びリチャードのボーカル曲、そして7曲目はディオンヌ・ワーウィックのボーカル曲。すべてミドルテンポ~バラード調で、まさに作曲家リチャードの真骨頂。

 さて問題は9曲目ですが……。これがね、一見かなり元気でティーンな感じの女性ボーカル曲……ですが、前述の二人とは違うようで。ライナーみたら、歌「Scott Grimes」とあって。ああスコットね、そういう女性名があるのだろうな、と思ってググったら。
 なんとれっきとした男性(笑)。え!って感じ。これ言われなきゃ(言われても)絶対男性に聞こえない。当時15歳の新人らしいけど、フェミニンで凄いわ。実はライナーの巻頭でリチャードはこの人について、非常に面白いアーティストで大きな期待を持っている、などと書いてる。
 この曲、ただでさえキーが高いのに、なんと後半で半音上へ転調するんですよ。一種の音楽的ユーモアだよね、まさにハードル上げた。

 歌詞がまた面白くて、どうやらカレンがアイドル化して、みんなの心の中に勝手に棲み始めたことを揶揄するような内容なんです。兄貴として実は複雑な心境だったということか(笑)。
(日本だと、カーペンターズはほぼ100%音楽性で評価されてるんですが、海外ではアイドルとしてウケていた面が大きかったのかも?と時空超えて透視)
 まさかこんな斜め上からのクスグリを入れてくるとは、本当に予想外。プロデュース力の勝利ですね。
 まあこれを青春真っ盛りの15歳男子が爽やかに「女声」で歌うのだから、もう非常に面白いとしか。いやはや。

 全体的に見て、これはアーティストとしてより、プロデューサー・リチャードの仕事を前面に出したアルバムといえそうです。ゲストボーカル3人だし、そもそもソロアルバムでこんな構成って他に例がないでしょう。
 その意味では「自分」をもプロデュースしてるんですが、こうなるとメタ的で面白い。
 
 全て聞いたあとでは、4曲目のハーブ・アルパートとリチャードのデュオの掛け合いの部分、ほんとに短いですが、この楽器同士の「会話」が、このアルバムの白眉かもしれません。これがあるとないとでは印象が全く違う。それくらい重い。
 カーペンターズを見出したアルパートは様々な思いがあったと思うし、それがジャズでもメキシカンでもない、フリューゲルホーンの「歌心」に結晶してます。怖ろしいほどの表現力。

 そして、レーベルオーナーが自ら「演らせろ」と言うわけがないから、これは起用したリチャードのプロデューサーとしての勝利でもあります。

 色々な意味でスペシャルなアルバム、1985年6月にレコーディングが終わり、ミックスダウン~完成が87年7月という、完璧主義者リチャードが磨き上げたアルバムです。
 ご興味のある方は、何かの機会にでもぜひ。自分自身は、音楽制作の様々な点で、非常に大きな示唆とインスパイアを与えられました。

(書き忘れてたが、バックはカーペンターズのレギュラーバンドで固めています。正に鉄壁)

(更に蛇足ながら「Scott Grimes」さんですが、現在までアルバム2枚、歌手としてはあまり成功しなかったが、役者として成功して「ER緊急救命室」にも出てたらしい。いいオジサンになってます)